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川田 誠一学長 挨拶

川田誠一学長

 本日、東京都立産業技術大学大学院に入学した105名の皆さん入学おめでとうございます。山本理事長はじめ法人幹部、教職員ともども皆さんの入学を心からお祝い申し上げます。またこれまで皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆さまに心よりお祝い申し上げます。
 本学は平成十八年開学以来、本日をもって学生募集総数1,500名、入学者総数1,606名となりました。そして、本日より、事業設計工学コース21名、情報アーキテクチャコース42名、創造技術コース42名の皆さんが新しい学びを開始されます。産業技術分野の専門職大学院として着実に社会に認知されてきました。
 さて、入学者の皆さんは新型コロナウイルスの感染の広がりの中、入学されました。この時代に生きる者にとって経験したことのない状況に皆さんも我々も直面しています。
 これを取り巻く問題はこの新型コロナウイルスの影響が社会の広範囲におよび、かつ抜本的な対策がいまだみつからないことにあります。
 このような中、本学では令和2年度当初は遠隔授業を中心に授業を実施し、後半では対面と遠隔の併用で授業を実施してきました。開学以来本学では原則すべての講義をビデオで配信する仕組みを導入しています。また、秋葉原キャンパスを対象にした実時間双方向の授業も実施してきました。このようなことから今回のコロナ禍の中、授業の実時間双方向遠隔実施とオンデマンド配信を併用した授業を順調に実施してきました。
 また、この度の新型コロナウイルス感染症の収束状況と本学学生の年齢構成などを総合的に考え入学式は遠隔開催としました。ご理解頂ければと思います。

川田誠一学長

 さて、本学のように産業技術分野で3コースを設置し総合的な専門職学位課程を有する大学院は日本でも本学だけであり、このユニークな教育の実践について、文部科学省を始めとして政府機関からも本学に大きな期待が寄せられ過去3度、北は北海道大学から南は琉球大学まで国立大学の職員100名以上が毎年本学でリカレント教育に関する研修を受けてきました。
 コロナ禍の中で遠隔教育を余儀なくされた日本の大学教育について文部科学省は次のような見解を述べています。すなわち「新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、これまで対面が当たり前だった 大学・高等専門学校の教育において遠隔授業の実施が余儀なくされ、実施に当たり課題も見られましたが、教員・学生からは「繰り返し学修できる」、「質問がしやすい」など好意的な意見もありました。デジタル活用に対する教育現場の意識が高まっているこの機を捉え、教育環境にデジタルを大胆に取り入れることで質の高い成績管理の仕組みや教育手法の開発を加速し、大学・短期大学・高等専門学校におけるDXを迅速かつ強力に推進することにより、ポストコロナ時代の学びにおいて、質の向上の普及・定着を早急に図る必要があります。」
 このようにこの一年のコロナ過における高等教育機関の遠隔教育を総括しています。そしてこのような現状認識から、文科省が前倒しで公募していた「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の公募について、今年の1月28日に第3次補正予算が成立し、多数の応募大学があるなか、本学の申請が採択されました。

 本学の申請した取組は『技能教育高度化のための共創的技能学習プラットフォームの構築』でして、予算規模が最も大きい「学びの質の向上」に採択されました。専門職大学院の運営に特化した小規模な大学院大学である本学にとってこの大規模な予算の獲得は快挙であります。研究科長をはじめとして関係教職員の迅速な対応が功を奏しました。詳細は本学ホームページなどに掲載しておりますので省略しますが、本取組が実現しますと、授業コンテンツの効果的なデジタル化の手法と教授法を確立し、さらに学習者と指導者の経験価値を共有化し、さらに他機関と相互参照が行えるプラットフォームが構築されます。本学の教育のデジタルトランスフォーメーションを加速させ、教育システムを先進的なものに変えていきます。

 ここで語りたかったことのひとつは、予め学んだ体系的知識だけでは課題解決が困難な現実の問題が沢山あるということです。完成された知識などない、継続的に学習し研究する力が必要であるということです。

 皆さんに是非お読みいただきたい本がございます。それはJ.S.ミルがイギリスのセントアンドルーズ大学の名誉学長に就任したときの講演録です。日本語訳では岩波文庫から「大学教育について(J.S.ミル (著), 竹内 一誠 (翻訳))」として出版されています。ミルはこの演説で『大学は職業教育の場ではありません。大学は、生計を得るためのある特定の手段に人々を適用させるのに必要な知識を教えることを目的とはしていないのです。』ときっぱり話しています。これから専門職大学院で学ぶ皆様に大学の目的が職業教育ではないということが書かれた本を推薦するとはどういうことかとおしかりを受けそうです。ミルは続けます、『人間は、弁護士、医師、商人、製造業者である以前に、何よりも人間なのです。』と、そして彼の講演はあらゆる高度な職業に携わる者が身に着けるべき本質的な教養の重要性を語ります。

 専門職大学院とは実践的な教育をする大学院だと一般には理解されています。それは間違ってはいません。しかし真に実践的であるためには知の体系を未来に向かって拡大していく能力が不可欠です。コンピテンシーのひとつである継続的学習と研究の能力の獲得を皆さんに求めているのも、こういった理由からです。
 そして本学では二つの授業科目を必修としています。ひとつは先に説明したPBL型演習授業であり、もう一つは技術に関する倫理についての授業です。

 日本でも諸外国でも企業の不祥事や航空機・鉄道・船舶の事故などが毎年のように発生しています。このような現状において、企業を取り巻くいろいろな問題が発生したとき、トップとしての判断、中間管理職としての判断、一般社員としての判断は、それぞれの立場によって異なります。また、法的な視点での議論は法学にゆだねるとしても、すべての法を熟知して産業活動を実施することが困難な状況で最低限守るべき倫理基準を学ぶことで、自ら法に抵触することなく業務活動が円滑に実施できるようになるメリットは大きいものです。本学の技術に関する倫理の授業では様々な事例を使った考える演習を実施し、皆さんがそれぞれの立場で判断力を培うことを支援しています。

川田誠一学長

 さて、大学院レベルの社会人のリカレント教育を考えた場合、従来は企業で開発研究に取り組んでいた人たちが大学院で博士の学位を取得することを目指すものだと考えられてきました。しかし、皆が研究者として生きて行くわけではありません。むしろ二十代までに学んだことだけで生涯を通じてエキスパートとして活躍することが難しい時代だからこそ学び直しが必要なのです。どの年齢層にとっても新しい知識やスキルを獲得することが生きがいのある生活を営む上で必要となりました。
 また、本学にはすでに起業した方から起業を目指している方も数多く入学されてきました。かつて本学運営諮問会議の議論で、起業するにおいてハスラー、ハッカー、デザイナーの三役が経営陣に揃うと成功すると言われているという話題がございました。

ハスラーは収益性が高くビジネスになるかという視点を持ち、ハッカーは技術的に実現可能か、または技術の壁を超えるにはどうすればいいかという視点を持ち、デザイナーは人間を理解し、ユーザーからみて広い意味で魅力的であるかという視点を持つのです。

 このことを本学に置き換えると、ハスラー育成については、事業設計工学コースが対応し、情報アーキテクチャコースがハッカー育成に対応し、創造技術コースがデザイナー育成に対応すると考えることができます。

 本学では様々な国籍、世代の方々、そして職種、職層も様々、大学を卒業したばかりの方、企業の現場で活躍しているエンジニア、管理職、経営者などが学生として学んできました。本学学生や修了生には社長も少なくありません。社長会も設置しました。外国人学生も留学生だけではなく、企業で活躍している外国人の方々も毎年入学しています。

 本日は中国、モンゴルなど海外から日本に学びに、また仕事に来られた方も入学されます。このような多様な学生達が同じ立場でチーム活動する学習環境は本学ならではのものです。今日皆さんは22歳から64歳までの同級生、友人を得ました。わくわくする学びの環境が整いました。
 新入生の皆さん、どうぞ本学で学び、キャリアアップ、キャリアチェンジ、スタートアップする力を獲得してください。
 本日は、誠におめでとうございます。

令和3年4月3日
東京都立産業技術大学院大学
学長 川田誠一

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