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多様な仲間と学び続ける
AIIT修了生コミュニティ インタビュー

AIIT修了生コミュニティ は、本学の修了生に対し自主的な学修と研究の機会を提供するとともに、その活動を支援するために設置された、修了生が主宰する研究会です。設置期間は1年(継続可)で、本学の教員がアドバイザとなり、研究内容や活動について指導・助言等を行っています。
継続した学びを実践する修了生4名のインタビューを紹介します。

インタビューに協力いただいた修了生と教員

  1. 創造技術コース 2020年度修了 五藤 利哉さん
    アパレル関連など、複数のデザイン会社に参画。2021年度及び2022年度に河西助教のもと「新たな時代に向けた持続可能なモノ創りと価値創出」をテーマにAIIT修了生コミュニティで活動。現在は田部井准教授が所長を務める「健康デザイン研究所」のメンバー。
  2. 創造技術コース 2019年度修了 藤原 宏樹さん
    エンジニアリング会社に勤務し、数値流体力学のソフトウェアをサポートするエンジニア。2021年度及び2022年度に河西助教のもと「新たな時代に向けた持続可能なモノ創りと価値創出」をテーマにAIIT修了生コミュニティで活動。現在は田部井准教授が所長を務める「健康デザイン研究所」のメンバー。
  3. 事業設計工学コース 2021年度修了 大森 亜紀さん
    新聞社で記者として勤務。2022年度に田部井准教授のもと「首都圏の健康寿命延命ソリューション」をテーマにAIIT修了生コミュニティで活動。現在は田部井准教授が所長を務める「健康デザイン研究所」のメンバー。
  4. 情報アーキテクチャコース 2020年度修了 黒江 卓哉さん
    人材会社でDXの推進エンジニアとしてアプリ開発等を担当。2022年度に田部井准教授のもと「首都圏の健康寿命延命ソリューション」をテーマにAIIT修了生コミュニティで活動。現在は田部井准教授が所長を務める「健康デザイン研究所」のメンバー。
  5. 東京都立産業技術大学院大学 田部井 賢一 准教授
    博士(医学)。日本学術振興会特別研究員DC1、三重大学大学院医学系研究科認知症医療学講座助教などを経て現職。認知症の非薬物療法の研究に従事。特に高齢者・認知症患者の残存機能に着目したオーダメイド型非薬物療法の開発に取り組んでいる。
  6. 東京都立産業技術大学院大学 河西 大介 助教
    修士(デザイン)。専門は色彩計画、グラフィックデザイン、ユニバーサルデザイン。静岡文化芸術大学大学院デザイン研究科修了後、建設コンサルタント、静岡文化芸術大学実習指導員、カラーコンサルタントを経て2019 年より現職。

修了生のみなさん
左から、河西助教、五藤さん、藤原さん、大森さん、黒江さん、田部井准教授

みなさんがAIIT修了生コミュニティへ参画した理由を教えてください

インタビューの様子1

五藤:私はもともと藤原さんと同じ PBL に所属をしており、その中で田部井先生と河西先生にアドバイスをいただきながら1年間活動していました。大学院修了後も継続して学びたいという思いがあり、藤原さんともう一人の方を誘って、3人でAIIT修了生コミュニティをスタートしました。

藤原:誘っていただいたときは、とてもうれしかったです。私はエンジニアをしていますが、デザインの分野にも興味があったのでAIITに入学しました。そこで初めて、社会課題に対して持続可能な経済「サーキュラーエコノミー(循環経済)」やモノ創りの考え方を知りました。もともとPBLでは「ストレス」をテーマに研究を行っていましたが、その後デザインという手段を用いて、さまざまな課題の解決に向けた取り組みができないかと、AIIT修了生コミュニティの活動に参加することを決めました。

五藤:私は一貫して、AIITでの研究に「ビジネスとして世の中に発信できるようにしたい」という考えで向き合ってきました。そういった点でも、藤原さんとは意見が合いました。共に同じ目標に向かっていける仲間がいるということは大きいですね。私にとってAIIT修了生コミュニティはいわゆる勉強の場というより、PBLの延長という意識です。仕事とうまく絡ませながら活動して、今に至っています。

大森:私はもともと事業設計工学コースの1年次に、孤独予防のチャットボットをつくるPBLに参加していました。それと並行して2年次に、田部井先生の「 健康寿命デザイン講座 」を受講したんです。チャットボットも構想にとどまり、実物の制作や実装まではいかなかったので、もう少し現実の世界に落とし込めないかと思っていた時に、AIIT修了生コミュニティの存在を知りました。そこで自分もぜひ参加してみたいと思い、黒江さんはじめ同じ健康寿命デザイン講座を受けていた方々にお声がけをし、賛同いただいた方といっしょにコミュニティをスタートさせました。

黒江:私もコミュニティを始めることになったのは、大森さんと同じくPBL時代に研究していた分野を実現まで持っていくことができなかったことが、そもそものきっかけです。当時は情報アーキテクチャコースで、健康系のサービスを新しく立ち上げようとアジャイル開発のPBLに取り組んでいて、田部井先生に指導いただいていました。修了後はAIITでの学びを生かして、立ち上がったばかりのベンチャー企業で活動をしていましたが、やはり当初思い描いていたコンセプトを実現することは難しく、今後どうしようかと考えあぐねていました。そんなときに出会ったのが「健康寿命デザイン講座」。そこでさまざまな方と出会う中で、これからの自分のキャリアや健康寿命についてもいつか真剣に考える時が来ると思い、この活動に参加することを決めました。

それぞれの修了生コミュニティの活動について教えてください

新たな時代に向けた持続可能なモノ創りと価値創出 (五藤さん・藤原さん)

五藤:仕事がアパレル中心なので、普段から大量生産、大量消費、大量廃棄の問題を身近に感じていました。そこで衣類の大量廃棄の問題を、循環して解決できる仕組みをつくろうと活動を始めました。
私たちの活動で最も力を入れていたのが、廃棄衣類を用いたプロダクトの開発です。1年目は日本の伝統工芸である和紙に廃棄衣類を混ぜ、新しい素材としての試作を繰り返していました。2年目は完成した素材を使用したプロダクトの開発を中心に行い、パソコンを入れるケースを制作しました。

首都圏の健康寿命延命ソリューシン (大森さん・黒江さん)

大森:健康寿命という大きなテーマを掘り下げていく中で、私たちが主題として扱うことを決めたのは、「認知症」というテーマでした。品川区にある八潮団地では、団地ができた1980年代当時に入居した方々が高齢化し単身世帯も増える中、コミュニティの維持が難しくなっているという課題がありました。修了生コミュニティでは、まず私たちが八潮団地のためにできることについて議論を重ねていきました。現在所属しているAIIT研究所では、八潮団地の住民の方々とともに「認知症カフェ」という場づくりを通して、団地のコミュニティに貢献できることを考えています。

PBLとの違いはどのようなところにありますか?

藤原:PBLでは課題を与えられ、「これをやりましょう」と大学側が学修を丁寧に導いてくれる側面があると思います。一方でAIIT修了生コミュニティは、メンバーが自発的に動き、同じゴールに向かって進んでいくという意識が強い。そのような意味では、仕事に近い感覚があるのかもしれません。また自分にとって関心の強い分野に取り組めたことも、大きな違いのひとつです。学びというよりは、実社会に積極的に関わっていくような活動であるところも特徴です。

黒江:PBLとAIIT修了生コミュニティの違いを考えると、研究内容に対する「自由度」が大きく違うと思います。PBLでは期間とグループごとのテーマが決まっていますので、具体的な目標に向かってまずは1年間活動する、ということになります。つまり、あらかじめ “解像度が高い状態” が用意されているんです。対してAIIT修了生コミュニティの場合は、テーマも自由なため抽象度も高いので、はじめは “解像度が低い状態” にあるとも言えます。実際に私の場合、研究テーマを設定するまでにかなり時間がかかりました。ただそれは、言い換えればPBLよりも時間をかけて研究や活動を行えることでもあるので、AIIT修了生コミュニティでは自分がやりたいことに対し真摯に向き合えるということです。私が所属するコミュニティのみなさんは、社会に貢献したいとかご自身のビジョンをしっかりと持っていらっしゃる方々だったので、議論を重ねながら共に解像度を高くしていく作業は、とても充実していました。

大森:黒江さんの言うように、AIIT修了生コミュニティは自分たちがやりたくて始めたことなので、自発的に集まっている人たちばかりです。ただ私個人で言うと、この活動を続ける理由のひとつは、大学院が終わっても仕事とは別に学びや実践を続けられる場所を持ちたかった、ということが大きいです。このままAIITや共に学んだ仲間との縁が切れてしまうのはもったいないと感じ、仕事という一側面だけではなく、社会との関わりをどうつくっていくかを考えたときに、大学院とのつながりを持ち続けたい、ここで勉強したことを活かして社会に還元したい、と思ったんです。先生方のアドバイスを引き続きいただけるのは、そうした活動を続けるうえで大きなメリットでしたね。

教員から見たAIIT修了生コミュニティはどのような存在ですか?

インタビューの様子4

田部井:AIIT修了生コミュニティでは「自主性を持つ」ことが何よりも重要です。みなさんのお話を聞いてわかるように、実際のお仕事の現場やそのほかの活動にもここで学んだことや実践したことを応用していただいていますので、私も非常に良い制度だと思っています。

河西:仲間と共に好奇心を伸ばせる時間というのは、かけがえのないものです。また、自分とは別の業種の方と出会うことによって、相乗効果のようなものも生まれているのではないかと思います。アカデミックな場で互いを刺激し合い、みなさんの実務にも大学側の教育分野にも還元していけるのが、AIIT修了生コミュニティの魅力です。我々教員が支えていると思われているかもしれませんが、AIIT修了生コミュニティの方々とはお互い切磋琢磨していくような関係性だと実感しています。

皆さんは現在、田部井先生が所長を務め、河西先生も参加するAIIT研究所「健康デザイン研究所」のメンバーとのことですが、この研究所に参画した経緯等について教えてください

インタビューの様子6

河西:私は五藤さんや藤原さんとともに、AIIT修了生コミュニティで「新たな時代に向けた持続可能なモノ創りと価値創出」の研究を2年間続けてきました。そんな折に、田部井先生が新たに AIIT研究所 を設立するというお話があり、これまでの研究も活かしながらできることを考えた際、ステージを変えて新しいテーマにチャレンジをするのも選択肢のひとつだなと考え、「 健康デザイン研究所 」に参加することを決めました。「ヘルスケア」を大きなテーマに据え、モノ創りやメディア、サービス、デザインなど、さまざまな方法を使って新しい何かを創出することに関わらせていただくことにしました。

田部井:私が立ち上げた「健康デザイン研究所」には、デザインチームや社会連携チーム、マスメディアチームといったさまざまなアプローチをするチームが存在しています。修了生のみなさん、それぞれの研究内容を簡単にご紹介いただけますか?

五藤:私たちデザインチームはその名の通り、デザインを通じて健康というテーマに対して何ができるかを考えています。僕らがAIIT修了生コミュニティでやっていた「サーキュラーエコノミー」、循環経済と訳されるこの考え方を基軸に日々議論を重ねています。

藤原:PBLでも「ストレス」をテーマに健康デザインに取り組んできた経緯もあって、デザインは人のライフスタイルといった長い時間軸に影響を与えられるものだと考えているので、健康に対して働きかける新しい仕組みを生み出したいと考えています。普段はエンジニアとして仕事をしているので、こうしてデザインに関わって社会に貢献できる場所が継続してあるのはとてもありがたいですね。

大森:社会連携チームでは今、品川区の八潮団地やその周辺に住む方々にヒアリングを行い、生活を送る上での困りごとを抽出しているところです。それをもとにソリューション・システムやサービスを提案し、研究を続けながら、その成果を社会にも還元できるようにしていきたいと考えています。

黒江:私はマスメディアチームで、健康デザインを主軸にメディアをつくった際に、どんなアプローチで発信していくべきかという企画を練っています。今はどのような方々にどのような情報を届けていくべきかといった戦略から議論を重ねているところです。これまでAIITが重ねてきた知見も活用しながら、健康あるいはキャリア、人生設計に対して興味のある方々に向けて、有益な情報を届けるメディアを立ち上げたいと思っています。

田部井:AIIT修了生コミュニティの活動期間が原則1年(注:継続可)なのに対し、研究所は最大5年、申請すればさらなる継続も可能です。働きながら研究を続けるうえでは、このように中長期的なプランが立てやすいことは大きなメリットになります。また、修了生コミュニティの場合はAIITの修了生と在学生しか参加できないのですが、研究所の場合は本学関係者に限らず、多様な専門家の方々にも参加していただいています。チームメンバーもさまざまな視点を持つバラエティに富んだ方々になりますので、そこもメリットとして挙げられますね。

河西:アカデミックな分野とビジネスや実装をつなぎ合わせる役割の一つが「デザイン」だと考えています。互いのニーズを形にしてサービスをつくる際に、教員や学生の間に専門性の違いが存在するというのは大いに役立ちます。みなさんとお互いの専門性を活かして、さまざまな目線をかけ合わせていくことによって、新しいソリューションが生まれていくことも、研究所の魅力です。研究所に所属する修了生とは、もはや教員と生徒という関係性ではなく、「パートナー」と言えるのではないでしょうか。

AIITでの数年間を経て、みなさんはどんなものを得たと思いますか?

インタビューの様子7

大森:何より大きいのは、異なったバックボーンを持ち、本業でも会うことがなかったであろう方々との出会いですね。そんな方々と「自分たちが今後生きていくうえで、社会に対してどう貢献できるのか?」ということを照れずに話す時間を持つことができました。AIIT修了生コミュニティでも研究所でも、自分の発想やアイデア、想いを聞いてくれる人がいて、お互いに意見を言い合える場があるというのは、すごく幸せなことだと思っています。今ではお互いに仕事やプライベートの悩みも共有できる関係です。

黒江:AIIT修了生コミュニティや研究所での取り組みを通じて実感したのは、自分たちが望むかぎり自分自身や社会にたくさんのチャンスをつくれるということ。それぞれ専門性を持つ多才なメンバーがいらっしゃるので、いろいろな可能性を追求できる。活動自体が無限の可能性を秘めていると感じています。

研究を継続するうえで、修了生との関係はどのように変化していきますか?

河西:本学に入学されている方は、その業界のトップランナーも少なくありません。修了生に関しては、教員であるこちらから何かをレクチャーするというよりも、お互いから学ぶという関係性に変わってきていると思います。研究や実務、何かを創り出すといった場面で、そうした関係性の中に生まれる発見や驚き、楽しさが起点となり、物事が進んで行きます。そこに、修了後も同じ目標を見据え共に歩んで行こう、という姿勢が生まれていると感じています。

修了生のみなさんから、AIITを目指す方へ伝えたいことはありますか?

インタビューの様子8

五藤:情報や知識がどんどん流れてくる中で、自分が修了後にどういうことをやりたいかというビジョンを明確に持つことが大切だと思います。色々なところにアンテナを張ってみると、自分の身になる情報や知識が至る所に転がっていることに気づくはずです。僕はAIITでの学びを通じ、改めてそんなことを感じました。

大森:私のアドバイスはシンプルです。ぐいぐい行ってください。学生の立場をフルに使って先生方に相談を持ちかければアドバイスをいただけるし、やりたいことに対して応援してくださる。与えられた課題をこなすだけではなくて、やりたいことがあるのなら積極的に動いていくことをお勧めします。

黒江:AIITに入学することを検討されている方の中には、ご自身のキャリアに悩まれている方もたくさんいらっしゃると思います。この学舎には、そうした悩みへの答えに近いものがきっとあるはずです。みなさんも大学院に入学して多くのことを学ばれ、その後はAIIT修了生コミュニティや研究所に参画するかもしれません。そのすべての活動が、きっとあなたの道を拓いてくれるのではないかと思います。

藤原:AIITを目指す方は、みなさんやりたいことや知りたいことの種を持っていると思います。その種を大事にしながら学んでいってほしい。そうすれば、同じビジョンや問題意識を持っている方に出会えるはずです。そして、先生方や仲間といっしょにその種を育てていけば、修了する頃には自分が思っていたよりずっと素晴らしい花になると思います。種から花を咲かせるように、一歩ずつ学んでいってください。いつか、みなさんと一緒に活動できることを楽しみにしています。

参考情報

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