令和2年度秋季入学式を実施しました
令和2年10月1日、東京都立産業技術大学院大学秋季入学式を実施しました。この日、情報アーキテクチャコース4名、創造技術コース5名が入学しました。新入生に向けた学長の式辞を紹介します。また今年度の秋季入学式は新型コロナウイルス感染防止対策として、一部教員は遠隔での参加となりました。
川田誠一学長 式辞
本日、東京都立産業技術大学大学院に入学した9名の皆さん入学おめでとうございます。本日より、情報アーキテクチャコース4名、創造技術コース5名の皆さんが本学の学生として新しい学びを開始されます。教職員ともども皆さんの入学を心からお祝い申し上げます。またこれまで皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆さまに心よりお祝い申し上げます。
本学は平成十八年開学以来、本日をもって学生募集総数1,410名、入学者総数1,501名となりました。産業技術分野の専門職大学院として着実に社会に認知されてきました。
さて、入学者の皆さんは新型コロナウイルスの感染の広がりの中、入学されました。この時代に生きる者にとって経験したことのない状況に皆さんも我々も直面しています。これを取り巻く問題の大きさはこの新型コロナウイルスの影響が社会の広範囲におよび、かつ抜本的な対策がいまだみつからないことにあります。
このような状況で日本の多くの大学も対面授業の完全実施には至っておりません。ただ、本学では開学以来原則すべての講義をビデオで配信する仕組みを導入していたことや、秋葉原キャンパスを対象にした実時間双方向の授業を実施していた経緯から、今回のコロナ禍の中、授業の実時間双方向遠隔実施とオンデマンド配信を併用した授業を大きな問題なく実施できております。皆さんの入学後にもいろいろ通常とは異なるオペレーションを大学も実施してコロナ禍に対応しますが、このような状況をご理解頂ければと存じます。
さて、入学者の皆さんに東京都立産業技術大学院大学が考えている教育について少しお話したいと思います。皆さんは入学前に本学のホームページをご覧になったと思います。そこで私が発信しているメッセージに次のような箇所があります。「実社会で直面する技術課題は演習問題ではありません。一つの専門知識やスキルで解決できない課題がほとんどです。従来の大学院教育で実施されてきた体系的な知を獲得しているだけで解決できるほど現実の問題は単純ではありません。むしろ従来の知識だけでは、その本質を理解することすら困難な複雑性を有しています。それぞれが技術横断的な問題解決を必要とするのです。本学では、このような現実の問題を高いレベルで解決できる人材を育成するために豊富な事例を用いた授業や本格的なPBL型教育を導入することで、実践的な業務遂行能力を獲得できるようにしました。PBL型教育の原点は自らの力で原理原則に立ち戻り考えることと、高いコミュニケーション力を発揮してチームで強固な壁を突破することにあります。これらの力を本学では全学生が獲得すべきコンピテンシーとしています。すなわち、コミュニケーション能力、チーム活動、継続的学習と研究の能力の3つのメタコンピテンシーの獲得を皆さんに求めています。」
ここで語りたかったことは、予め学んだ体系的知識だけでは本当の課題解決が困難な現実の問題が沢山あるということです。完成された知識などない、継続的に学習し研究する力が必要であるということです。
ここで皆さんに是非お読みいただきたい本がございます。それはJ.S.ミルがイギリスのセントアンドルーズ大学の名誉学長に就任したときの講演録です。日本語訳では岩波文庫から「大学教育について(J.S.ミル (著), 竹内 一誠 (翻訳))」として出版されています。ミルはこの演説で『大学は職業教育の場ではありません。大学は、生計を得るためのある特定の手段に人々を適用させるのに必要な知識を教えることを目的とはしていないのです。』ときっぱり話しています。これから専門職大学院で学ぶ皆様に大学の目的が職業教育ではないということが書かれた本を推薦するとはどういうことかとおしかりを受けそうです。ミルは続けます、『人間は、弁護士、医師、商人、製造業者である以前に、何よりも人間なのです。』と、そして彼の講演はあらゆる高度な職業に携わる者が身に着けるべき本質的な教養の重要性を語ります。
専門職大学院とは実践的な教育をする大学院だと一般には理解されています。それは間違ってはいません。しかし真に実践的であるためには知の体系を未来に向かって拡大していく能力が不可欠です。コンピテンシーのひとつである継続的学習と研究の能力の獲得を本学が皆さんに求めているのも、こういった理由からです。ミルの言葉は本学における学びにおいても意味のある言葉だと思います。
本学では2つの授業科目を必修としています。ひとつはPBL型演習授業であり、もう一つは技術に関する倫理についての授業です。
日本でも諸外国でも企業の不祥事や航空機・鉄道・船舶の事故などが毎年のように発生しています。このような現状において、企業を取り巻くいろいろな問題が発生したとき、トップとしての判断、中間管理職としての判断、一般社員としての判断は、それぞれの立場によって異なります。一般に法的な視点での議論は法学にゆだねられます。しかし、すべての法を熟知して産業活動を実施することが困難な状況で最低限守るべき倫理基準を学ぶことで自ら法に抵触することなく業務活動が円滑に実施できるようになります。このメリットは大きいものです。本学の技術に関する倫理の授業では様々な事例を使った考える演習を実施し、皆さんがそれぞれの立場で判断力を培うことを支援しています。
さて、大学院レベルの社会人のリカレント教育を考えた場合、従来は企業で開発研究に取り組んでいた人たちが大学院で博士の学位を取得することを目指すものだと考えられてきました。しかし、皆が研究者として生きて行くわけではありません。むしろ20代までに学んだことで生涯を通じてエキスパートとして活躍することが難しい時代だからこそ学び直しが必要なのです。どの年齢層にとっても新しい知識やスキルを獲得することが生きがいのある生活を営む上で必要となり研究科を再編しました。皆さんは再編後の最初の10月期入学生であります。
新しい研究科を検討しているときに、本学運営会議のメンバーから一つの考えが披露されました。それは、起業するにおいてハスラー、ハッカー、デザイナーの三役が経営陣に揃うと成功すると言われているということです。
ハスラーは収益性が高くビジネスになるかという視点を持ち、ハッカーは技術的に実現可能か、または技術の壁を超えるにはどうすればいいかという視点を持ち、デザイナーは人間を理解し、ユーザーからみて広い意味で魅力的であるかという視点を持つのです。
このことを本学に置き換えると、情報アーキテクチャコースがハッカー育成に対応し、創造技術コースがデザイナー育成、そしてハスラー育成については、新しい学位プログラムである事業設計工学コースが対応すると考えることができます。
これらの学びが相互に作用し、起業・創業・事業承継に結実していくことが期待されています。
多様な学生達が同じ立場でチーム活動する学習環境は本学ならではのものです。今日皆さんは22歳から70歳までの同窓生、友人を得ました。わくわくする学びの環境が整いました。
新入生の皆さん、どうぞ本学で学び、キャリアアップ、キャリアチェンジ、スタートアップする力を獲得してください。
令和2年10月1日
東京都立産業技術大学院大学
学長 川田誠一