第7回インタビュー
求められるのは知識の統合と設計倫理
―社会を変えるインダストリアル・デザイン―
今回のインタビュー
福田哲夫教授
1967年、都立工芸高等学校デザイン科卒業後、日産自動車に入社。70年代に独立し、商用大型トラックから産業用機器、生活用品等、多領域にわたる製品開発や研究活動を続ける。新幹線等の公共交通機関の開発にも参加。首都大学東京教授を経て2008年、産業技術大学院大学教授、創造技術専攻長に。同産業デザイン研究所長も務める。
インダストリアル・デザインに対する考え方が変化していると聞きます。
福田 インダストリアル・デザインは今、単なるモノのデザインというだけでなく、社会システムを考えるものへと変わっています。たとえば「エコ・デザイン」は、これまで環境に配慮したデザインにとどまり、省エネ性能が高いなどの点が評価尺度でした。ところが今は、life cycle assessment(LCA)を考えます。製品の使用段階だけでなく、企画から廃棄に至るライフサイクル全体で、4R(Recycle、Ruse、Reduce、Refuse)との関係により、環境負荷を減らすことが求められるわけです。好例なのが、デジタル音楽プレーヤーです。普及によってCDの流通を駆逐してしまいました。音楽が世に広まる仕組みを変えるほどのインパクトを社会に与えたわけです。物事にはプラスとマイナス、両面があるものですが、モノの最小化とサービスの最大化という点において、まさにエコ・デザインといえます。プラス面とマイナス面の調整には、仮説提案に基づき、社会全体の観察による問題発見からアプローチして決定していくことが重要ですし、設計倫理も求められます。
より視野を広げたインダストリアル・デザインを実現するには何が必要でしょうか。
福田 多領域を知ることですね。たとえば私は、700系新幹線の開発に参加しました。長距離を超高速で移動する車内のシートやトイレには、部材一つ固定するにも振動に耐えられる方法が求められます。軽量化や騒音軽減も至上命題です。そうした条件を満たすには、素材の吟味から加工、組立、仕上げなどの幅広い知識を持ち、これを俯瞰し統合していくことが必要です。さらに、社会システムを知るには、歴史や文化、地理的条件なども深く理解しなければなりません。インダストリアル・デザインにおいて目配りすべき対象は、まさに多領域にまたがるわけです。
PBLには、どんな学生が参加していますか。
福田 学部卒業生は、より深くデザインを学びたいと考えて志望するようです。一方、社会人は、自身の専門領域がものづくりの中でどの位置を占めているのか、そのなかでどのような役割を果たすべきかを理解するために学ぶケースが多いようです。
次回は、2011年度プロジェクトの内容についてお聞きします。