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令和元年度秋季入学式を実施しました

令和元年10月1日、産業技術大学院大学秋季入学式を実施しました。この日、情報アーキテクチャ専攻8名、創造技術専攻8名が入学しました。新入生に向けた学長の式辞を紹介します。

川田誠一学長 式辞

川田誠一産業技術大学院大学学長

 本日、産業技術大学大学院に入学した情報アーキテクチャ専攻8名、創造技術専攻8名の皆さん、入学おめでとうございます。教職員ともども皆さんの入学を心からお祝い申し上げます。またこれまで皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆さまに心よりお祝い申し上げます。
 本学は平成18年開学以来、本日をもって学生募集総数1,300名、入学者総数1,386名となりました。産業技術分野の専門職大学院として着実に社会に認知されてきました。
 この専門職大学院の制度上の特徴は、『理論と実務を架橋した教育を行うことを基本としつつ、少人数教育、双方向的・多方向的な授業、事例研究、現地調査などの実践的な教育方法をとること、研究指導や論文審査は必須としないこと、実務家教員を一定割合置くこと』などです。本学はこのような基準に基づいて教育システムを開発するなかで諸外国の調査を踏まえて、開学当初からプロジェクトを中心に据えた教育プログラムを実施し、それを継続的に改善発展させてきました。その成果はAIIT PBL Methodとして取りまとめ、内外に発信しています。
 皆さんは入学前に本学のホームページをご覧になったと思います。そこで私が発信しているメッセージに次のような箇所があります。

「実社会で直面する技術課題は演習問題ではありません。一つの専門知識やスキルで解決できない課題がほとんどです。従来の大学院教育で実施されてきた体系的な知を獲得しているだけで解決できるほど現実の問題は単純ではありません。むしろ従来の知識だけでは、その本質を理解することすら困難な複雑性を有しています。それぞれが技術横断的な問題解決を必要とするのです。本学では、このような現実の問題を高いレベルで解決できる人材を育成するために豊富な事例を用いた授業や本格的なPBL型教育を導入することで、実践的な業務遂行能力を獲得できるようにしました。PBL型教育の原点は自らの力で原理原則に立ち戻り考えることと、高いコミュニケーション力を発揮してチームで強固な壁を突破することにあります。これらの力を本学では全学生が獲得すべきコンピテンシーとしています。すなわち、コミュニケーション能力、チーム活動、継続的学習と研究の能力の3つのメタコンピテンシーの獲得を皆さんに求めています。」

令和元年度秋季入学式

ここで語りたかったことは、予め学んだ体系的知識だけでは本当の課題解決が困難な現実の問題が沢山あるということです。完成された知識などない、継続的に学習し研究する力が必要であるということです。
 専門職大学院とは実践的な教育をする大学院だと一般には理解されています。それは間違ってはいません。しかし真に実践的であるためには知の体系を未来に向かって拡大していく能力が不可欠です。コンピテンシーのひとつである継続的学習と研究の能力の獲得を本学が皆さんに求めているのも、こういった理由からです。
 本学では2つの授業科目を必修としています。ひとつはPBL型演習授業であり、もう一つは技術に関する倫理についての授業です。
 日本でも諸外国でも企業の不祥事や航空機・鉄道・船舶の事故などが毎年のように発生しています。このような現状において、企業を取り巻くいろいろな問題が発生したとき、トップとしての判断、中間管理職としての判断、一般社員としての判断は、それぞれの立場によって異なります。また、法的な視点での議論は法学にゆだねるとしても、すべての法を熟知して産業活動を実施することが困難な状況で最低限守るべき倫理基準を学ぶことで、自ら法に抵触することなく業務活動が円滑に実施できるようになるメリットは大きいものです。本学の技術に関する倫理の授業では様々な事例を使った考える演習を実施し、皆さんがそれぞれの立場で判断力を培うことを支援しています。

さて、大学院レベルの社会人のリカレント教育を考えた場合、従来は企業で開発研究に取り組んでいた人たちが大学院で博士の学位を取得することを目指すものだと考えられてきました。しかし、皆が研究者として生きて行くわけではありません。むしろ20代までに学んだことで生涯を通じてエキスパートとして活躍することが難しい時代だからこそ学び直しが必要なのです。どの年齢層にとっても新しい知識やスキルを獲得することが生きがいのある生活を営む上で必要となりました。
 そして、本学では在学中あるいは修了後に起業・創業する方が増えてきました。このことから2020年4月を目途に事業設計工学修士(専門職)を授与する新しい学位プログラムをスタートすることを計画しています。イノベーションを実現できる人材を育成することを目指しているのです。
 この検討の過程で本学の運営諮問会議から答申を得ていますが、その答申には興味深いことが述べられていました。
 起業するにおいてハスラー、ハッカー、デザイナーの三役が経営陣に揃うと成功すると言われているというのです。
 ハスラーは収益性が高くビジネスになるかという視点を持ち、ハッカーは技術的に実現可能か、または技術の壁を超えるにはどうすればいいかという視点を持ち、デザイナーは人間を理解し、ユーザーからみて広い意味で魅力的であるかという視点を持つのです。
 このことを本学に置き換えると、情報アーキテクチャ学位プログラムがハッカー育成に対応し、創造技術学位プログラムがデザイナー育成、そしてハスラー育成については、新しい学位プログラムである事業設計工学が対応すると考えることができます。
 これらの学びが相互に作用し、起業・創業・事業承継に結実していくことが期待されています。
 多様な学生達が同じ立場でチーム活動する学習環境は本学ならではのものです。今日皆さんは22歳から75歳までの同窓生、友人を得ました。わくわくする学びの環境が整いました。
 新入生の皆さん、どうぞ本学で学び、キャリアアップ、キャリアチェンジ、スタートアップする力を獲得してください。
 本日は、誠におめでとうございます。

令和元年10月1日
産業技術大学院大学
学長 川田誠一

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