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第40回コラム
「情報の本質」

情報アーキテクチャ専攻 教授 小山裕司

図1: Google TrendでWikiLeaksの検索傾向の画像
図1: Google TrendでWikiLeaksの検索傾向

 インターネット上のオンライン百科事典であるWikipedia(http://www.wikipedia.org/ 、2001年01月~)はご存知であろう。Wikiと略されることもあるが、Wiki自体は正しくはある種のCMSを指す総称で、複数の特徴ある実装が存在する。本学のInfoTalkサイト(http://pk.aiit.ac.jp/)はpukiwikiというWikiの実装をカスタマイズしたもので運用されている。WikipediaはこのWikiとencyclopedia(百科事典)から生み出された新語である。

 Wikipediaの特徴は、誰でもインターネット上で自由に利用できること以上に、誰でも自由に編集に参加できることにある。Wikipediaは本当に誰でも編集に参加できる。匿名での参加も許可されている。通常、この手の百科事典は、正確さと信頼性を確保するため、限定された識者によって編纂される。識者による編纂で、伝統と実績を誇るブリタニカ百科事典(1768年~)は約65千項目であるのに対して、群衆の叡智、いわゆるオープンソース現象で実現されたWikipediaは、現在、約17,300千項目(278言語)の記事がある。項目が最も多いのが英語で約3,490千項目、ドイツ語、フランス語、ポーランド語、イタリア語が続き、日本語は6番目で約720千項目であり、ありとあらゆるものの記事が掲載され、何かが起きるたびに瞬時に更新されている。

 シロウトの記事の多くはクズだという意見もあるが、Wikipediaは玉石混交どころか、Nature誌から「科学分野では、Wikipediaとブリタニカ百科事典の正確さ及び信頼性は同程度である」というの調査結果が発表されている(2006年12月)。また、2007年頃、私が指導した学生が卒業研究の一環として、Wikipediaに関して調査を行ったが、対象とした記事のほとんどで、誰かの手によって、比較的短い期間のうちに、誤った内容の修正あるいは加筆が行われたことが観測された。要は、最初の段階では記事の内容がクズだったとしても、多くの参加者の目と手によって、何度もブラッシュアップが行われることによって、記事の正確さ及び信頼性が高められる仕組みが出来上がっているわけである。

 ただし、あまりに簡単に各種事項の調査ができてしまうので、Wikipediaの内容を剽窃したレポートを提出してくる学生がいるとか、またWikipediaの記事の中には書籍から剽窃されたものがある等の問題が指摘されている。また、多くの情報が統制されること無く掲載され、オンライン上のストレージに永続的に記録されてしまうことの是非も興味深い。

 最近、Wikipedia類似のWikiLeaks(http://www.wikileaks.org/ 、2006年12月~)という、政府・企業・宗教等の機密情報を収集・公開することを目的としたサイトが話題にあがることが多い。名前から類推できるように、Wikipediaと同じMediaWikiという実装を使っている。WikiLeaksサイトの運営は2006年12月頃から始まったが、最近、アフガニスタン戦争関連の機密情報(7月25日)、イラク戦争の米軍機密情報(10月22日)、米国外交機密文書(11月28日)等が公開され、あっという間に大衆が存在を知りうる状態と成った(図1はGoogle Trendからの引用参照)。尖閣諸島沖での中国漁船衝突映像がYoutubeに登録され、物議を醸す出来事があったが、WikiLeaksでは、過激で巧妙であり、参加者(告発者)の匿名性を高めるための工夫、政府等からの関与を回避するための工夫が行われている。サイト自体は米国外にあるため、米国政府が手出しすることも出来無い。まさにインターネットに情報が公開されるというのはこういうことであるという見本である。

 民主主義が普及していくにしたがって、情報公開が進んできた。これが行き着くところはあらゆる情報が参照できる情報公開社会であろう。しかし、中国では、Google中国での「天安門」、「ダライラマ」等、検索に対する規制がかけられたことがあったし、現在ではGoogle、Facebook、Twitter、Wikipedia等への接続は規制されている。要するに、政府が管理出来無い要素は排除する傾向にある。これが正しいかどうかは悩ましいが、これが国家として正しいのであれば、情報隠蔽あるいはインターネットすべてを監視下に置くのが政府の正義という判断に行き着く。

 しかし、情報公開と情報隠蔽の対立は、単に政治体制の違いとして片付けることが出来無い。両者の対立の落とし所はどこだろうか。ここまで、世間が情報公開に傾いている現状で、いまさら100%隠蔽は無いだろうが、しかし100%公開も相当難しいだろう。今回のこれらの出来事は、あらゆる情報が公開された社会では何が起こるのか、何故秘密の情報が必要かを再考する機会でもある。最終的にどのあたりに収束すべきかという仮想実験だと思うと非常に興味深い。

(12月3日加筆)

 余談であるが、WikiLeaksは米国外交機密文書を公開した直後からDDos攻撃を受け、Amazon EC2等を現在転々と移動している模様である。Amazon EC2で稼働したのはわずか2日である。

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