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第26回コラム
「PBLを通じて-一助教のつぶやき-」

創造技術専攻 助教 村尾俊幸

 コラムを書かせていただくことになった。
僕が所属している創造技術専攻には僕を含めて五人の助教がいる。みんなそれぞれに経験豊富な経歴の先生達ばかりである。それに比べて、僕は幸運にも社会人経験を経ることなく学生の身分からストレートでここに勤めており、さらに年齢も一番若いため経験値という点において見劣りしてしまう。いつも他の先生達に色々なことを教えられてばかりだ。
でも逆に言うと、学生-特に大学を卒業してストレートでここに入学した新卒者-にとって一番近い存在であるとも思う。今日は教員というより、どちらかというと先輩の立ち位置で学生のみんなに向けてコラムを書きたいと思う。

 先日、他の多くの大学院の修論発表会にあたる、PBLプロジェクト成果発表会が東京国際フォーラムで行われた。今年は創造技術専攻では初めてのPBL発表会であり、前例がないことから学生のみんなはとても大変だったと思う。みんな本当にお疲れ様。
何でも最初にやるというのは大変だ。その代わり前例に囚われず自分たちで色々と考えてできるため、おもしろいしやりがいもあり、自分達の能力を飛躍的にアップさせることができると思う。
さて、PBL発表会も含めた日々の活動により、みんなこの一年間で色々な能力がアップし様々なスキルを手に入れたと自覚しているだろう。他大学の修士研究と比較した本学のPBLの大きな特徴として、各個人でそれぞれに研究を行うのではなくプロジェクトをグループで行っていくこと、さらにそのグループで組まれるメンバーはそれぞれバックグラウンドが異なり様々な経歴を持つ社会人と新卒者が入り交じっていることの二つが挙げられる。
そこで、他の大学院の学生との違いも考慮した上で、僕が考えている経験しておいてほしいことや身につけて欲しい能力等を挙げさせてもらおうと思う。

 まず新卒者に必ず経験して欲しいことは、精神的にも体力的にも追い込まれること。その点において社会人は、仕事が終わり疲れた体で大学に学びに来ているのだから、この二年間で相当な経験をしていると思う。
それに対して、もしも同じPBL活動をやっているという安直な理由だけで、新卒者がそのペースに合わせて夜だけ活動を行っているようなら絶対に足りない。

 なぜならみんなが社会に出てから同期となりライバルとなっていくのは、同時期に一日中研究活動を行ってきている学生なのだから。
人間一度経験しておくと、次に同じことを行うときには余裕を持ってできる。
それは追い込まれるということに対しても同様であり、次に同じレベルの大変なことに直面したときに過去の経験から耐えられるようになる。研究活動を一日中行うことでより良い結果を出そうと自分を追い込んでいる他大学の学生は、会社でも同じように自分を追い込める術を、また追い込まれたときに対応できる術を持つことになる。
したがって、同じチームの社会人や他のPBLチームの進捗状況だけを意識してそれに合わせるのではなく、どうか強い意志を持って時間をかけてPBLに真剣に取り組み、自分達をどんどん追い込んでいってほしい。

 また身につけて欲しい能力としては、物事を深く論理立てて考えられる能力と大域的に物事を見れる能力を初めに挙げたい。
簡単なことを短い時間で数多く行うことと、高度なことに対して時間をかけて行うこととでは、後者の方がはるかに難しいと僕は考えている。確かに向き不向きや得たいスキルの違い等はあるかもしれないが、せっかく大学に学びにきているのだからぜひ後者のことにもチャレンジしてほしい。高度なことを行うには、物事を深く論理立てて考えることが必須となる。今やっている部分が何を意味し、どの部分が難しくその難しさの本質は何なのか。その本質を解決するためにどういった手順を踏まなければならないか。これらのことを常に問いかけながら問題に取り組んで欲しい。

 ただし、一年間という決められた期間があり、かつ成功が要求されるプロジェクトを行うのだから、単に時間をかけて深堀していけばよいというものではない。残りの期間やプロジェクト全体における現在の自分達の立ち位置を考慮し、大域的な視点に立って物事の優先順位を測りながら進めることが重要となる。特に、人は困難な問題に直面すると大域的に物事を見られなくなりがちであり、結果的に局所的な最適解の導出のために多くの時間を費やしてしまっていることが多々ある。それに対して一歩引いて見てみることで、根本的に異なるアプローチを用いたより簡単な解決手法が見つかるかもしれない。PBLを通してそれらを経験し、その能力をぜひ身につけていって欲しい。

 もちろん、先に挙げた本学特有の特徴のために向上できる能力も多分にある。中でも、長期のグループで行うプロジェクト活動を通して様々な役割を経験できることは大きい。リーダーには、ただ強引なだけでなくメンバーのモチベーションを向上させつつ引っ張っていくリーダーシップ能力を修得して欲しい。また、プロジェクトマネージャーには、理論だけではなく想定外の事象も起こりうる実活動を通じて、マネジメントする方法を身につけていって欲しい。バックグラウンドの異なるメンバーの力量を判断した上での仕事を振る能力も重要になってくると思う。もちろん、仕事を振られた側のメンバーの役割も重要である。許容範囲以上の仕事を抱え込むと、引き受けたときには良くても結局期日に間に合わなくなり結果的にチームにとってマイナスになるわけだから、そこの判断はしっかりできるようになってほしいし、他のメンバーがそうなっていたら自然に助けられるようなチームワークをチーム全体で構築していって欲しい。

 これらのことが全て身につく絶好の機会は、意図的に回数が増やされている発表会のときである。何を主張しなければならないのか。なぜこのタイミングで言わなければならないのか。正に大域的な視点を持ってその主張の論理構成を考える絶好の機会であり、それは発表のためだけというよりプロジェクト全体の自己評価をしていることにもなる。ここで、特にこのような他者の前で自分達のプロジェクトを披露する機会に対しては、練習を過分に行えるくらいのスケジューリングをして欲しい。
僕は自分の先生から「準備、準備そして準備」という言葉と準備することの大切さを教わった。もちろん完全な準備を行うことだけで成功するとは限らないが、準備していないことに対して新たにその場で対応するのは、準備してあることを行うよりもはるかに難しい。したがって発表練習だけでなく、質疑応答練習までできるようなスケジュールをプロジェクトマネージャーには組んで欲しい。そのように時間をかけて準備をしっかりすることで自然とプレゼン能力は向上していくだろう。

 上述のスキルや経験を今年得られた学生さんは多いだろう。外部の人もたくさんいる中で、あんなに大きな会場で発表できたことは、非常に貴重な経験になると思う。改めて一年間お疲れ様。
来年度の学生のみんなは四月から新たなプロジェクトを始めるわけだが、ぜひ今年度以上のものを目指して頑張って欲しい。そして再来年度の学生のみんなはそれ以上のものを。
最後に。ここに書いたのは本学のメタコンピテンシーレベルのことで、もちろん別途コアコンピテンシーを身につけて欲しいと思っている。このコラムに書かれていることなんて当然で何を今更と思う人も多いと思う。それでいいと思う。でも当たり前のことだからこそ、今年度の学生はその視点に立ってもう一度この一年を振り返って欲しいし、来年度以降の学生は確実に向上できるようにPBLに取り組んでいって欲しい。

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