第144回コラム「テレビ会議システムの発展と遠隔講義」
2022年11月1日
追川 修一 教授
コロナ禍により、感染拡大の予防のために密な状況を避ける必要性が高まり、大学・大学院において遠隔での講義が一般的に行われるようになった。そこで使用されるのは、Google Meet、 Microsoft Teams、 Zoomといったテレビ会議システムになる。これらのテレビ会議システムは普通のPCで実行できるため、特別な機材を用意する必要は無い。1ヶ所から複数人数が参加する場合は、テレビ会議のために設計されたマイクを用いた方が、声が聞き取りやすくなるというメリットはあるが、テレビ会議の一般化が進んでいるためPCに搭載されるマイクの性能も上がっており、数名程度であればPC内蔵マイクで十分になってきている。PCだけでなく、タブレット端末やスマートホンからもテレビ会議に参加できてしまうため、テレビ会議システムは誰でも使えるものになっている。
コロナ禍が始まったのが2020年であり、テレビ会議システムがPC、 タブレット端末、スマートホンで使えるようになっていたからこそ、多大なコストをかける必要なく、比較的短期間の間に、大学では遠隔での講義、企業ではテレワークや遠隔での会議・打ち合わせをできるようにする準備を整え、実施することができたと言える。
では、このような事態になったのが2010年であったならどうなったのだろうか。新型インフルエンザにより入学試験等で特別な対応をする事態となったのは、2009、2010年であったため、可能性が無かったわけではない。
2010年頃では普通のPCで実行できる会議システムはSkypeくらいであったと思う。複数人数での会議は音声のみで可能であり、Wikipediaによるとグループでのビデオ通話は2011年1月に追加されたことになっている。少人数での会議をSkypeで行うことはあったが、ある程度の人数が参加し、PCの画面を共有し、それを見ながら議論をするという形態で用いられるのは、もっぱらPolycomと呼ばれるシステムであった。Polycomは、高性能のマイクとカメラが接続されたテレビ会議専用のシステムである。価格も高く、ちょっとしたサーバくらいの値段であったため、大学では潤沢な予算をもつ研究室だけが(だいたいそのような研究室は共同研究の会議も多いため)持つことを許される贅沢なシステムという印象であった。そのような高価なシステムにも関わらず、また大学間のネットワークは家庭に来るものよりも高速であるにも関わらず、ビデオ機能を使用しながらの会議は接続が切れたり、音が途切れ途切れになったりして、それほど安定したものではなかった。そのため、Polycomが使える環境にあっても、時間が許せば対面での会議が選択されることが多い時代であったと思う。
そのような2010年頃の状況では、オンラインで参加することのできる同時双方向型の遠隔講義の実施は難しかったのではと考えられる。発信側はPolycomを用意できたとしても、受信する学生側は困難であり、そもそも各学生が受信するような多地点接続は不可能であった。講義は動画配信で行い、会話の手段としてSkypeを組み合わせる方法も考えられるが、講義のような多人数での会話が当時のSkypeで可能であったかは不明であり、たとえ可能であったとしても音声だけの場合は、教員と学生の両方で相当の慣れが必要になったと考えられる。本学では、2006年の開学当初から全ての講義を録画、配信しているという歴史があるが、講義の配信だけでは同時双方向型の遠隔講義は成立せず、本学で対面講義と録画講義を組み合わせたブレンディッドラーニングを開始したのはLMSが普及してきた2014年になってからである。
2020年に始まったコロナ禍で、本学の授業の実施形態にも変化があった。遠隔講義を秋葉原にあったサテライト教室の代替として位置付け、対面講義と遠隔講義の組み合わせた形態としてハイフレックス型講義を導入した。ハイフレックス型講義では、学生は個々の状況に応じて、教室で対面講義を受けるか、都合の良い場所から遠隔講義を受けるか選択することができる。本学の平日の講義は、6限の開始が18時30分と授業に間に合うように登校するのはなかなか難しく、また7限の終了は21時40分であり帰宅が遅くなってしまうため、遠隔講義のメリットは大きい。一方で対面講義の場は、教員および学生間での交流を深める機会にもなるため、対面か遠隔かを選択できることは学生の利益につながると考えられる。