第139回コラム「男おひとりさま道」
2022年3月8日
三好 祐輔 教授
経済力を持つことについて話をしましょう。国公立大学は人件費カットという流れにあります。私が赴任した頃は、給与は6~7%近く上昇していました。だから、20年後には自分の思うような収入になると思っていました。しかし、「行革推進法」の第53 条において、平成18年度以降の5年間で5%の人件費削減に取り組むことが明記され、各大学はこの目標値の達成に動かなければならなくなりました。さらに、運営費交付金の削減が年1%なので、法人化前に比べ20%以上予算が減額されている。授業料の値上げをするのかというと、学生の志願率が下がるからそれはしない。こうした大学の運営状況は、教員個人の経済力(給与)の問題に直結します。
高山憲之(2015)が2011年に実施した「くらしと仕事に関するインターネット調査」(調査対象は30~59歳の男女、約6000人)によると、30歳以上に限定すれば、給与の高い女性正社員は結婚せずに未婚のままの人が多い。共働き世帯と比べると、専業主婦世帯には相対的に世帯年収の低い世帯が比較的多いことを指摘しています。また、内閣府の調査によると、独身でいる理由について、未婚者(3,322人)に結婚していない理由を聞いたところ、「適当な相手にめぐり合わないから」が57.0%と過半数を占めます。「自由や気楽さを失いたくないから」(32.9%)、「結婚後の生活資金が足らないと思うから」(29.6%)、「必要性を感じないから」(28.3%)が3割前後で続いています。特に、女性は男性よりも、相手の職業や経済力を重視・考慮しているようです。
こういった統計資料からわかることは、所得が高い人であれば生涯独身を貫く女性が多いことです。経済力のある女性と我々の男おひとりさまは果たして婚姻関係を結ぶことはできるのでしょうか。「男おひとりさま道」の著者である上野千鶴子さんが述べる男おひとりさまには、次の3種類がある。第一に、妻に先立たれた死別シングルアゲイン組、第二に、離別したシングルアゲイン組、第三に、ずっとシングルの非婚組である。私は、第三の非婚組のグループに当てはまります。
上野千鶴子さんは、男おひとりさまに対し、同世代の女性を結婚相手に求めても結婚は難しいと言っています。こうした意見に対し、ファイナンスを専門とする立場からみると、婚姻関係を結ぶことは保険契約に似た特徴を持つと思います。保険加入者の立場に立って考えてみればよくわかります。保険加入者は、自分が将来事故に遭うかもわからない、事故に遭遇した時に所得が減じるのを回避するため、所得の安定と引き換えに保険料(リスク・プレミアム)を支払うという選択をします。つまり、所得のリスクテイカーを保険会社に求めているのです。これになぞらえると、所得の安定と引き換えに婚姻関係という契約を結ぶことを望むという考えもあると思います。その意味では、経済力のある女性は、所得の安定と引き換えに婚姻関係を維持するという契約をそもそも結びたがらないと言えるかもしれません。だから、男おひとりさまを結婚対象とする可能性は低いともいえます。
もちろん、経済合理性以外の要因で、パワーカップルになっている方もおられます。今後給与上昇のアップが見込めない状況において、経済力を持ちたいと考えるおひとりさまは、主夫(主婦)をする気持ちの用意が必要であるのかもしれません。地方でいれば都会に比べて生活費は相対的にかからないので、パワーカップルを目指さない生き方もできるので、そのような生き方を否定するつもりはもちろんありません。
上野さんが言うように、シングルアゲインの女性が次の結婚を望んでいるかとういうと、結婚はもうこりごりだという意見が主流でしょうか。男おひとりさまはずっと一人で生きてゆく心構えが必要になるのかもしれません。「男おひとりさまを辞める気になれば、結婚はできるだろう」と軽く考えているようですから、私はいつまでたっても結婚できないのではないでしょうか。