第115回コラム
「いい睡眠、悪い睡眠-データ解析サイエンスから見た睡眠の質-」
情報アーキテクチャ専攻 黄 緒平 助教
ストレスを抱える現代社会では、多くの方が不眠問題もしくは悪い睡眠の質に悩まされている。健康志向であっても、身体の状態や睡眠の質などを可視化して、理解・分析できるリテラシーを熟知する人がまだ少ないと筆者は推測する。更に、病理分析など病院の臨床データを分析し、ソリューションを提案する論文が多く発表されているが、最先端の技術が社会のニーズに見据えて、実応用や一般ユーザへの浸透まではまだまだ道のりが遠い。
そこで、近年気軽に睡眠の質を分析・把握できるウェアラブル腕型IoTデバイスが頭角を現し、一つのソリューションとして注目すべきである。特に近年ではApple watch、 Fitbit、 Veryfit、 Jawboneなど装着に負担を掛けずに安価で入手できる腕型の心拍計製品の活躍が目立っている。体温センサー、加速度センサー、そして心拍センサーが小型で、ファッションナブルなデザインを誇示するウェアラブル端末に内蔵され、個性的なアクセサリーにもなっている。
ほとんどの製品には心拍数を集計する機能を有する他、定刻に血圧データを採集し、自動に睡眠時の睡眠の深さ(熟睡、浅い睡眠、レム睡眠、目覚め)を計測できる機能まで搭載している。寝ている間に心拍数が低下し、体温も低くなり、寝返りの際に腕の体動による加速度の変化などを観測し、そして、入眠後に間も無く熟睡モードに入るという臨床から得た経験に基づいて、睡眠の深さを論理的にかつ高精度に予測するメカニズムだ。心拍数、睡眠の深さ、日常のアクティビティなどのデータを集約・統計し、一般ユーザでも状況を一目瞭然に分かるように可視化されている。APIを経由し、1分間隔でのデータ採集も可能である。図1は筆者の脈拍及び睡眠ステージのデータに基づいて、自作プログラムで可視化したデータを一例として示している。
また、これまで心拍数の集計は心電図の記録が主な手段だったが、呼吸数や体動の制限があり、睡眠中の測定が困難だと思われている。だが、腕型ウェアラブル装置を腕に装着すれば、夜中に無呼吸症候群や心臓病患者の突如なハプニングによる心拍変動でも液晶画面に表示され、睡眠中でも他人がリアルタイムで観測・把握できる異常マーク付きの機能を備えている。計測の精度は脳波や眼球の動きなど顔面に装着する複数のセンサーにより採集されたデータより若干低くなるが、有益な目安になっている。
更に、心拍数や睡眠の深さなどの時系列データに対し、周波数スペクトル解析を加えると、高い周波数帯域と低い帯域のそれぞれのパワースペクトラム密度の解析によりストレスまで計算できる。ストレスを可視化にすれば、過労死を未然に防げるとも言える。研究分野では医工学・社会学・情報学が異分野の知見を最大限で融合し、新たなヘルスケア事象をデータ解析の手法を用いて、生体シグナルに纏わるメカニズムを解明している。更に、環境センサーと連動して、一人ひとりの体質に合わせて最適な睡眠環境の助言ができるように、AI技術が力を発揮している。
直感的に心拍変動、血液変動、睡眠の深さデータ及びストレス指標がユーザに伝わるのが大変有益な進歩で、ユーザの健康意識が向上され、よりよい睡眠・健康なライフスタイルへ導くような動機付けにもなっている。IoTデバイスの台頭及びデータ解析技術の発展によって、科学の進歩が日常生活にポジティブな影響を与える飛躍的な一歩になったとも言える。
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氏名:黄(こう) 緒(しょ)平(へい)
現職:産業技術大学院大学 助教
研究プロジェクト:
IoTヘルスケアビッグデータ処理、情報セキュリティ、電子透かし