第111回コラム
ロボットチャレンジ「つくばチャレンジ2018」への参加
創造技術専攻 大久保 友幸 助教
私は2018年に、学生と共に自律移動ロボットを開発・製作して「つくばチャレンジ2018」に参加する機会を得ました。チームは学生の中から社会人学生と留学生9名で構成、学生たちの意欲はとても高かったのが印象的でした。自律移動ロボットは、近年とても注目され、今後も多くの分野で発展する見込みです。この技術を習得することは学生にとって今後のキャリアを構築するために、とても重要なチャレンジとなったのではないか、と思っています。さらに技術を磨き、2019年秋に行われる予定のチャレンジにも、またぜひ参加したいと思っています。
技術コンテストや大会と言うのは、技術を発展させるため・若手技術者を育成するために、多くの分野で行われています。もちろん、ロボット分野でも多く開催されています。
例として、いくつか上げてみると、
- アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト
高専ロボコンの愛称で、NHKで放映される人気のロボットコンテストで、毎年異なる課題に対して、アイデアを駆使、競技を通じてその成果を競うものです。 - 全日本マイクロマウス大会
マイクロマウス競技はロボットに迷路を通過させてその知能と速度を競う競技です。このロボットをマイクロマウスといいます。 - 全日本ロボット相撲大会
ロボット力士を技術とアイデアで競わせる競技です。この大会らしく全日本大会は両国国技館で開催されています。 - Intelligent Ground Vehicle Competition (IGVC)
主にアメリカで開催されている自律移動車両の大会で、参加大学はアメリカ、カナダ、日本、台湾、中国、インドなどのチームです。
このほかにも国内外問わず、たくさんのロボットのコンテストが開かれています。
私たちが参加したつくばチャレンジは茨城県つくば市の市街地で行われる技術チャレンジです。人間とロボットが共存する社会の実現のために、先端技術への挑戦を行うことを課題としています。参加チームは、車いす程度の大きさの移動ロボットを製作し、市街地1km+αを走行させます。屋外の市街地を走行させるため、主に歩道部分や、横断歩道、公園の遊歩道、ビルやショッピングモールの内部など、人間・車が通行する場所を、ロボット自身が外部の環境を認識しつつ、その振る舞い方を決めて走行する(自動走行・自律走行)のが特徴です。
2018年は、6〜11月に10回の実験走行、11月に本走行、各チームが開発で得た成果をシンポジウムで発表、全国から大学研究室チーム中心で個人参加も含め63チーム・75台が参加しました。私たちは「産業技術大学院大学チーム大久保」というチーム名で、「産技大1号」というロボットを参加させました。本走行での結果は、スタート地点で既定時間内にスタートさせる事ができず、残念ながらDo Not Startと言う結果でした。しかしながら、本走行後の検証では20m程度走行でき、また3ヶ月という超短期間のスケジュールで移動ロボットを形にする事が出来たこと、来年に向けて技術と経験が蓄積できたこと、何よりロボット技術への高い意欲を獲得することができたと思っています。
AIITの学生だけで、つくばチャレンジに向けてロボットを開発するのは2018年が初めてで、失敗と模索、試行錯誤の連続で、終わってみれば4つの課題があったと思います。
- チームメンバーの交代
AIITは社会人と留学生が中心で、授業受講の時間を捻出するのに精一杯の学生が多いです。開発開始6月からいた創造技術専攻のメンバーの何名かは業務多忙により離脱、代わりに情報アーキテクチャ専攻からも加わり、実働メンバー9名がそろったのは8月で、実質3ヶ月でのロボット製作となりました。 - 時間の捻出
社会人学生の大半は、日中勤務の後、夜に授業受講、レポートを書き、翌日また勤務をします。つまり平日は開発に時間を裂くことができません。土曜日は夕方まで授業があります。結果として、土曜の夕方から深夜までのわずかな時間と日曜しか開発時間を捻出ことが出来ませんでした。 - 実験走行への参加不可能
つくばチャレンジでは、6月から11月にかけ10回程度、現地のデータを取得、実験走行を行えます。しかし日程は、土曜日・日曜日・祝日に設定されていますが、AIITでは土曜日・祝日は授業開講のため、日曜日3回しか参加する事が出来ませんでした。 - 経験の不足
つくばチャレンジでは、実験場所の市役所駐車場にチームのドックを設営できますが、テント・発電機など、さまざまな機材を各自で用意する必要がありますし、ロボットや実験機材の運搬もチームが行います。屋外の道を走らせるためのロボットの強度を保たなければなりません。また、本走行の時には時間内にロボットを操作、スタートさせなくてはいけません。初めての参加という事でどのようにロボットを作れば良いか、走行時にはどのようなことをチームで行わなければならないか、ルールはどのようになっているか、と言った経験が不足していました。
そこで、これらの課題を補えるように、私達は次の様な手を打ちました。
- モジュールの使用
電気電子回路や機構部品を一から設計する事は時間必要で、また信頼性も低くなります。すでにモジュールとして販売されているものを多く使用しました。コストがかかること、自由度が効かないことがネックですが、設計時間を短縮する事ができました。 - オープンソースソフトウェア
ロボット自身が環境を認識し挙動を決めるため、知的な制御が必要です。知的制御には複雑で膨大な計算量が必要で、プログラムの開発には膨大な手間と時間がかかります。すでにインターネット上で公開されているプログラムであるオープンソースソフトウェアを多く使い、開発時間を削減しました。OS (Ubuntu)、ロボット制御のミドルウェア(ROS)、制御プログラムのベース(ORNE Navigation)などです。 - 参加実績のあるチームとの勉強会
法政大学理工学部創生科学科の小林研究室は、過去に何度もつくばチャレンジに参加、課題達成の経験を有します。研究室のメンバーに勉強会の開催をお願いし、技術を教示してもらいました。これにより開発スピードを加速できました。 - ラピッドプロトタイピング環境
部品は加工するため機材や手間が必要です。部品はCADをつかい設計、3Dプリンターで出力したり、部材を加工済みで購入したりするなど、ラピッドプロトタイピング環境を活用しました。 - コミュニケーションツール
チームメンバーは社会人が多いため、時間が合わないため、コミュニケーションは課題です。SlackやGoogle Drive、メーリングリスト、加えて週一回のミーティングで情報共有しました。
その結果、つくばチャレンジ2018に参加することができました。
お掃除ロボットは移動ロボットの技術がふんだんに使われた製品ですし、車の自動運転は自律移動技術の代表と言えます。他にも警備ロボット、障がい者支援ロボット、農業ロボットなど、多くの分野での自律移動ロボット技術の発展が期待されています。AIITの学生のキャリアアップ・チェンジのため技術の学修機会としてつくばチャレンジへの参加は有意義であったと感じています。さらに経験と技術を磨き2019年も参加したいと思っています。読まれているみなさんも、ご興味があれば一緒に開発を行いましょう。