第109回コラム
良いチームワークを引き出すための活動デザイン
情報アーキテクチャ専攻 大﨑 理乃 助教
チームワークは、自転車に乗ることに似ています。どのように前に進むのか、その仕組みを知っているだけでは自転車を運転することはできません。体得しなければならない繊細な制御があります。つまり、練習と試行錯誤が重要です。しかし、ブレーキやペダルの場所をはじめに知ることで、練習の時間を短縮することはできます。
世の中のほとんどの仕事で他者と協力することが求められているいま、チーム活動の困難さを感じることも多いでしょう。どのような活動であれば、良いチームワークを引き出せるのでしょうか。そのヒントになるのが「活動デザイン」、つまり「活動を設計する」という考え方です。この考え方は、自転車でいうところの「ブレーキとペダルの場所」になるでしょう。そこで、今回のコラムでは、効果的なチーム活動に興味をお持ちの人を対象に、グループの活動デザインについて紹介します。
集団が良いチームとして機能するための活動デザインには、過去の実践から導き出された知見が役立ちます。これまで、集団の目的や状況に応じて、良いチーム活動のための条件が整理されてきました[1]-[3]。しかし、はじめから多くの条件を満たすように活動をデザインするのは困難です。そこで、最も基本的な条件である「ゴール」「参加」「コミュニケーション」の三つに焦点を絞って、活動のデザインを考えてみましょう。
1.チームのゴールを設定する
まずはチームメンバーで、自分たちのプロジェクトの成果物と扱う範囲(スコープ)を設定します。これはプロジェクトマネジメントの基礎でもあります。しかし、チーム活動の初期段階では、ゴールの検討に長い時間をかけてしまい、実際の活動が始まらない場面も見受けられます。その場合、ゴール設定のための話し合いを続けるのではなく、ゴール自体を後で改善することを視野に入れて、「ゴール(仮)」を目標にした活動を始めることが有効です。また、ゴールの設定は、その自由度によって難しさが向上します。あらかじめ設定されたテーマに関心をもつメンバーでチームを作るほか、ゴールで達成するべき条件を先に決定するなどの工夫によって、ゴール設定の難易度を下げることができます。
2.全員が参加する
第2の条件である「参加」では、全員が等しく成果物に貢献することを目指します。ここで注意するべきは、「等しい貢献」とは「作業量が同じ」という意味ではないことです。例えば、ネットワークサービスを調査する場合、ネットワークエンジニアは技術的な調査や解説の側面から成果物に貢献できるでしょう。業務でマーケティングを担当している人は、市場の視点からの調査や解説で成果物に貢献できるでしょう。このように、チームの成果物に対する貢献を前提にして、責任を持つ役割をメンバーそれぞれに決める必要があります。
3.コミュニケーションを円滑に行う仕組みをつくる
「コミュニケーション」に関しては、同じ時間と場所にいるメンバーで行う同期型と、異なる場所や時間から各メンバーが行う非同期型の2種類を使い分けます。例えば、同期場面としての会議と、非同期場面としてのオンライン掲示板というように、目的に応じてツールを設定します。特に、非同期コミュニケーションを円滑に行うためには慣れも重要です。そのため、プロジェクトの初期段階では非同期コミュニケーションを積極的に行い、課題を抽出しつつ、仕組みを改善することが必要となります。
本コラムでは、良いチームワークを引き出すための活動デザインとして、最も基本的な「ゴール」「参加」「コミュニケーション」の3条件を紹介しました。「これらの条件を満たすために、より具体的な方法が知りたい」、「三つの条件を満たしているけれど、もっと良いチームにしたい」と感じた人に向けて、本学(AIIT)の図書館で参照可能な参考資料のリストも掲載しています。必要に応じてご利用ください。
私の担当科目では、PBL (Project Based Learning)の練習として、この3条件のほかにグループサイズや課題の難易度、フィードバックなど、様々な要素をデザインしています。受講される機会があれば、それらの仕掛けがどこにあるかを探していただくのも面白いかもしれません。
<より深く知りたい方へ,AIIT図書館でアクセス可能な参考資料>
[1] L.スタッケンブルック,D. マーシャル.“プロジェクトのチーム形成”,プロジェクトマネジメントプリンシプル. プロジェクトマネジメント協会(PMI)編,PMI東京支部監訳.アイテック,2006, pp.59-106.
[2]E. C. エドモンドソン.チームが機能するとはどういうことか.野津智子訳.英治出版,2014.
[3]K. M. ホフマン.ミーティングのデザイン エンジニア、デザイナー、マネージャーが知っておくべき会議設計・運営ガイド.安藤貴子翻訳.ビー・エヌ・エヌ新社,2018.