第97回コラム
プロ・フェッサー
情報アーキテクチャ専攻 瀬戸 洋一 教授
2018年1月5日のNHKニュースによれば、将来なりたい職業に関し、男の子は「学者・博士」が、「野球選手」や「サッカー選手」を抑え15年ぶりに1位になった。これは3年連続して日本人がノーベル賞を受賞したことが影響したのではないかということである。同業者としては嬉しい限りである。しかし、我々は、本当に子供達が目指す「学者・博士」になっているのだろうか?
我々大学に職のある教育研究に携わっているものは教授と呼ばれている。教授の英訳は、プロフェッサー(Professor)である。プロフェッサーの語源は、プロ・フェスであり、pro(前)とfess(認める)に由来している。これからプロフェショナル(Professional)(公言するもの)という言葉ができ、それを職業にする者をプロフェッサーと呼ぶようになったらしい。
プロフェッショナルと同様に専門職(専門家)の英語としてスペシャリスト(Specialist)という言葉がある。しかし、前者は後者を包含するがイコールではない。専門知識をもとに新しい分野にチャレンジし、新しい技量や知見を獲得することができ、それを語ることができる者がプロ・フェッショナルで、高度な知識や技量を蓄え実行できる者をスペシャリストと呼ぶとのことである。
企業では、新たなことに対応する場合、関係者の許可が必要であり、プロフェッショナルな研究者、技術者であっても、個人の判断で、容易にリスクの高い挑戦をすることができない。その点、大学人は、必要な時点で、自己責任で挑戦することは容易である。失敗もその理由を明確にすれば成果の一つとなり、それに続く技術者たちの道標にならねばならない。制約は、若干の研究費も関係するが、倫理観ぐらいであり、成さんとする自身の挑戦する気持ちがモチベーションとなる。
ファースト・ペンギン(First Penguin)という言葉がある。 ファースト・ペンギンとは、集団で行動するペンギンの群れの中から、天敵がいるかもしれない海へ、魚を求めて最初に飛びこむ1羽のペンギンのこと。リスクを恐れず初めてのことに挑戦するベンチャー精神の持ち主を、敬意を込めてファースト・ペンギンと呼ぶ。
つまり、プロフェッサーとは、「プロ・フェッショナル」で「ファースト・ペンギン」な教育研究の専門家ではないか? 誰よりも先にその分野の見識を身につけ、発信し、またリスクを冒して、専門分野を切り開く専門家と定義できるのではないかと考える。
一方、プロフェッサーは日本語では教授と呼ばれる。Webによるデジタル大辞泉では、学問や技芸を教え授けること。研究・教育職階の最高位であると書かれている。日本語訳になると、そこには、教育および専門分野のスペシャリストの意味があるが、ファースト・ペンギン、プロ・フェスの意味は入っていないように思える。教授とは矮小化した日本語翻訳ではないかと思える。
我々は、多くの知識、論理的思考能力、教える力だけでなく、社会が抱える課題に対し、専門知識をもって先人をきって対応することが必要であり、教育機関の一員のポストに甘んじてはならない。
「技術の街道をゆく(岩波新書 2018年1月)」の著者の畑村洋太郎氏によれば、技術開発の突破口は、現地、現場、現人にあると言っている。プロ・フェッサーは、言葉とおりのプロ(フェッショナル)たるべきであり、社会に対し、現実を自らの目で見、体験し、人と交わり、リスクを冒して新しい価値を生み出す知的産業体の一員を目指すべきである。