第92回コラム
MICEの重要性
情報アーキテクチャ専攻 松尾 徳朗 教授
日本政府観光局が掲げる国際会議開催件数増加の重要性を取り上げるまでもなく、従来型の観光産業に対して、国際会議開催による訪日者数の増加の重要性が近年認識されてきている。
近年の為替相場の大きな変動や景気の後退は、観光産業に直接的に大きな影響を与えており、それらの影響を受けにくいタイプのツーリズムの発展が期待されている。その一つとして、これまで優先度が低かった国際会議開催による旅行者の獲得が注目を集めている。
MICEでの旅行は一般の観光と本質的に何が違うのであろうか。まず、一般の観光での予算は旅行者ごとに違うことが挙げられる。それぞれ旅行者の予算に応じて安価な宿泊施設を選んだり、泊数を増やしたり、あるいは10年に一度の旅行をゴージャスに過ごす人も存在する。
一方で、MICEにおいては、ある一定の品質が定まっていることが挙げられる。
例えば、MICEの一つである国際会議について考えてみると、宿泊に利用するホテル、ホテルなどの会議室利用、会議後のレセプションやディナーバンケット、開催地の特色をPRするアトラクション、質の高いコーヒーブレイク、ISBNを持つ製本出版される資料集など、すべてにおいて高いレベルが求められる。
MICE活動において、品質を高く保つ必要がある理由としては、国際標準に関する取り決めや新技術の発表などが含まれており、それぞれのイベントに応じた場を作る必要があるからである。
もしその品質を下げてしまえば、イベント自体が快適ではなくなれば、海外からのイベントへの参加者にとって快適ではなくなり、その結果将来的に我が国の経済的あるいは技術的な優位性を失い、産業力が下がることにつながる。
MICEには、地域を発展させる潜在力がある。先述の通り国際会議は、一般の観光に比べて高い経済波及効果があり、例えば参加者500名の会議があれば、一般観光での旅行者3000名以上の経済波及効果に相当する。ひと月に2回程度国際会議が誘致できれば、7万人以上の一般観光客数の経済波及効果に相当することになる。つまり、観光産業や観光資源で目立たない都市でも、国際会議誘致を成功させることができれば、地域を大きく変える力を持っている。その結果、社会的波及効果や文化的波及効果も大きくなる。社会的波及効果とは、地域への訪問者が増加することにより、交通基盤整備の充実や訪問者をより良く迎える観光人材育成の充実が挙げられる。また、文化的波及効果とは、例えば、医学関係のコンベンションの場合、市民講座等が実施され、市民の健康に関する意識が向上することが挙げられる。国際会議では、参加者の旅費や宿泊費の支出に加えて、主催者が支払う様々な支出があり、多くが地域で消費される。例えば、会議の資料等は地域の印刷業者で会議プログラムが印刷され、飲食物等は地域のケータリング業者により提供されることが多い。このように、大きなビジネスチャンスと大きな地域の変革と発展を生むのがMICEである。
MICEの参加者がイベント参加のついでに、地域を観光することも多い。
したがって、MICEが一般観光と違う世界にあるとは考えず、連携した発展戦略が望まれる。