第85回コラム
高齢社会時代の次世代車いす
創造技術専攻 大久保 友幸 助教
平成28 (2016) 年版の高齢社会白書によると、日本の高齢者数は3,459万人だそうです。日本の総人口は1億2,693万人であるため、高齢化率は27.3%です。このような統計では、65歳以上を高齢者と扱うのですが、つまり全人口の4人に1人以上が、65歳以上という状況になっています。一般に「高齢化社会」というのは高齢者が全人口の7%〜14%の事をいいます。また「高齢社会」は14%〜21%の事をいい、21%以上を「超高齢化社会」といいます。2016年現在の日本の高齢化率を見ると27.3%ですので、日本は高齢化社会をすでに通過し、「高齢社会」となっていることがわかります。高齢白書を引き続き見ると将来の予想も書いてあります。2065年には2.6人に1人が65歳以上で、4人に1人が75歳以上という状況になるという予想をしています。すごい状況が予想されています。この状況に対して政策的に手を打たなければならないのはもっともですが、研究者としてできることは何でしょうか。
高齢者が、生き生きとした暮らしを営み、自立した生活ができていれば、高齢者も生産的な経済活動に参加出来るでしょう。また、若者たちも介護などに悩まなくてすみ、自身の経済活動に専念出来ることでしょう。そこで、高齢者になると衰えていく体の機能を補助していくシステムの開発を行っています。そして、足腰が弱った人たち向けには、次世代の車いすなどを研究しています。現在の車いすは、手でこいだり後ろから押してもらったりするタイプの普通のものや、電動で動きジョイスティック状のコントローラーで操作できる電動車いすもあります。これをもう1段進化させ、GPSで位置を認識してナビゲーションに従って目的地まで自動で進んだり、レーザーレーダーやカメラを使用して障害物を自動で避けたり、カメラで白線から車線を認識して白線から外れないように走行したりといった、自律走行可能な次世代車いすの研究を行っています。この説明で、どこかで聞いたことのような話がでてきました。自動車の自動走行の要素技術とほとんど一緒です。車の自動走行分野では、トヨタ・日産・HONDA、Googleやテスラなどそうそうたる企業がしのぎを削っています。そのため、車の自動運転などの技術なども多く取り入れながら開発を行っています。ただ、車の自動運転では、車という大きなものを扱うために、とても莫大なお金がかかります。しかし、車いすであれば、比較的小さな実験器具ですむという利点があります。小回りがきくのです。
これらの自律走行を行う小型のロボットの走行大会が、つくば市で毎年11月に行われています。「つくばチャレンジ」といいます。つくばチャレンジは、つくばエクスプレス線つくば駅近くを会場にし、公園や一般の道路などを利用して、全長約2kmのコースで行われています。公園も通過するため白線を隠す落ち葉に気をつけなればならないし、一般の観客もいるため歩行者が障害物になってしまうこともあります。また、信号を認識して渡ったり、ベストを着た人をロボットが探すというミッションもあったりします。産業技術大学院大学でも他大学と合同でチームを結成し、参加する事にしました。日本で、屋外の一般道をロボットが走行するためには法規制をクリアしなければならないが、つくば市は特区となっているため走行出来ます。そのため屋外を走行出来るこのような大会は日本ではとても珍しい。今年2017年は52チームのロボットが走行する予定になっています。
次世代車いすは、車いすの進化形であるから、若者や健康な人たちには、あまり関係がないと思うかもしれない。しかし、見方や形をちょっと変えると電動車いすは一人乗りのパーソナルビークルなのです。自転車やバイク、街中では大きすぎる自動車に変わり、こういった小型のパーソナルビークルが往来する日も来るかもしれない。そして、次世代の車いすであるパーソナルビークルが高齢者の自律的な生活をサポート出来る事を期待しています。