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第69回コラム
PBLによるサービス教育

産業技術研究科長 川田誠一教授

 サービス分野に関する知識、スキルを教授する上で、サービス設計を実践するプロジェクトを主とした教育方法(PBL型学修)が効果的です。創造技術専攻のPBLは平成21年から開始され、私が指導するプロジェクトの最初のテーマは、サービス設計の方法論を考えるものでした。懐かしさもあり、プロジェクトの進展などを思い出しながら、五年間で実施したプロジェクトの概要を述べたいと思います。
 平成21年度にはサービス設計方法論を確立するプロジェクトを実施しました。学生との議論からまとまった設計方法論はPLANと名づけられました。それは次の4つのフェーズで設計プロセスが構成されているからです。

a) Philosophical design
b) Logical approach
c) Analysis on service
d) Next best policy
 
 このプロジェクトの成果として興味深かったことは、調査研究を実施したことです。『吉川弘之、“サービス工学序説”、Synthesiology、Vol。1、No。2、pp。111-122、2008。』を引用して、産業としてサービスが成立する以前から、人間の生活の中心の中で発生してきたサービスである『医療、介護、補助、移動、飲食、美容、宿泊、教育、情報、相談、音楽、物語、娯楽、保管、輸送、保全、生産』の17種類のプリミティブサービスを元にインターネットの調査サービスを用いて108人を対象にSD法による印象分析を実施しました。詳細は省きますが、因子分析の結果からサービスを次の4つの因子で説明できるという仮説を提案しました。

1. 顧客対応能力
2. 確実性
3. 快適性
4. 顧客共感能力

 そして、これらの因子を元に顧客価値の設計やサービスエンカウンターの設計を実施したのです。

 さらに、離散事象シミュレータ”Arena”を使用しモデルの作成及びサービス評価のためのシミュレーションも実施してきました。シミュレーションを実施するためには顧客のモデルを作成する必要があります。この学修ではペルソナの作成という基本的な事柄から学び、実践してきました。また、顧客満足度を表現する数学モデルを構築することもシミュレーション実験の前提として実施してきました。このような成果を元にして平成21年度には大学教育サービスの改善について提案がなされました。結論は本学の設備の充実が求められているというものでした。

 その後、平成22年度には食と健康に関する新サービスを提案しました。平成23年度では震災後にふさわしいテーマを選びました。震災などの様々な障害がある状況において、事業継続計画(Business Continuity Plan、以下BCPと略す)の重要性が指摘されてきたのですが、家庭版BCPといえる家庭生活継続計画(Home Continuity Plan、以下HCPと略す)の策定が重要であるとの考えから、新サービスとしてのHCPサービスを提案しました。平成24年度には、人同士のネットワーク・コミュニティを利用することで社会の耐性を高めようという視点で新規サービスを企画立案し、必要なものの貸し借りを支援するサービスを提案しました。そして平成25年度には、オリンピック招致を視野に入れて外国人を対象にした観光サービスを提案してきたところです。

 今年度も新たなサービスを提案することを目指してプロジェクトが進行しています。PBLは学修手法です。プロジェクトを遂行する過程で、サービスシナリオの作成、ペルソナモデルの作成、SysMLを用いたサービスデザイン、離散事象シミュレータを用いたサービス評価の一連のサービス設計手法を学修するとともに、新たなサービスを提案できる創造性を学生諸君が獲得することを期待しています。

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