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第56回コラム
「PBLに対するスポーツ分野のチーム術の適用」

創造技術専攻 助教 村尾俊幸

 今年ももうすぐ一年が終わる。そしてまた新しい一年が始まる。一年の始まり。そう、箱根駅伝だ。私は大学駅伝が好きで、小学生の頃から毎年欠かさず見ている。昨年度は早稲田大学が出雲、全日本、箱根の大学駅伝3冠を達成した。この早稲田大学の駅伝チームは、駅伝強豪校から入ってくる推薦入学の学生と一般入試で入ってくる学生が一緒になり、つまり様々な背景を持つメンバーによりチームを構成するため、個人の最終目標が大きく異なるようである。しかし、箱根駅伝で優勝したいと強く思うのはどのメンバーも同じであり、現に今年の正月はエリート選手と叩き上げの選手が相乗効果を発揮し、歴代最高タイムで優勝している。

 一方、本学では2年次にProject Based Learning(PBL)型教育が行われており、社会人学生と新卒学生が混成チームを結成し、1年間のプロジェクトに取り組んでいる。しかし、チームの成果物が、各個の成果の総和というだけでなく、チームメンバー同士の相乗効果による最大化した成果となっているかと問われると、全てのチームが素直に首を縦に振れないのではないだろうか。本学のPBLチームは社会人と新卒者、さらにはメンバーの専門分野の違いなど、様々な背景を持つメンバーで構成されるという点において、前述した駅伝チームと似ている部分がある。本コラムでは、スポーツ分野のチーム術からのアプローチとして、早稲田大学競争部で行われているチーム術[1]の中から、本学のPBLでも取り入れられそうなものを一部だが紹介してみたい。キーワードは「目標共有」「リーダーシップ」「一体感」であり、それぞれを順に述べていく。

 まずは「目標共有」である。これにはチーム目標の適切な設定が不可欠となり、PBLに置き換えると、最終成果物の適切な定義ということになる(最初に最終成果物を定義せずに進めていくチームもあるかと思うが、何かしらの目標や方向性は決めるはずである)。狙う適切な目標は、メンバーの挑戦意欲をかきたてるという観点に立つと、努力次第で到達できるギリギリの線ということになるようだ[1]。しかし、チーム目標が適切に設定できたとしても、その目標を真の意味で共有し、目標達成のために邁進していくことは非常に難しい。その理由の一つに、PBLではチームとしての目標(成果物)の他に、個人毎に異なるスキルを上昇させるという目標が存在することが挙げられる。頭ではチーム目標を理解していても、どこか他人事で他のメンバーが達成してくれるだろうと暗に思ってしまっているメンバーもいるのではないだろうか。それを解決するためには、チーム目標が具体的に決められたときに、一緒に、その目標と自分自身の上昇させたいスキルとの関連性を考え陽に直結させておく、具体的なスキル上昇の道筋を描いておくことがポイントになる。チーム目標が達成できたときに自分のスキルが必ず上昇することが具体的に見えていれば、全メンバーがチーム目標を自分の問題として受け止め、チーム目標を真に共有することができるはずである。そして、メンバー一人一人が同じ目標に向かって自らの意志で前進し始めると、チーム全体が勢いよく動きだすはずである。

 つぎに「リーダーシップ」である。PBLではリーダーとProject Manager(PM)を兼ねるチームも多いが、リーダーには最終成果物という目標に向かって、メンバー一人一人に気を配りながら、チームをまとめあげる能力が必要となる。文献[1]では、リーダーを3タイプに分けている。最もスキルがある者がなる牽引型、熱意や熱心さがあってチーム全体への意識を常に持っている統率型、チームをまとめる調整力に優れた気配り型。このように様々なタイプに分類可能だが、結局は周りのことをよく観察でき、チームメンバーに応じて臨機応変に対応できることが重要となる。少し距離を置いた冷静な目でチームを見ることも大切だ。もちろん、このようなリーダーの振る舞いを多くのメンバーが普段から行えるのがより望ましい。本PBLではクォータ毎にPM(リーダー)を入れ替えるチームも少なくない。この方法は、全員がリーダーを経験することで周りのことをよく観察するようになり、最終的にはお互いの働きかけが強い、良いチームが生まれることにつながるかもしれない。

 最後に「一体感」である。これはコミュニケーションの頻度に直結する。お互いに他人への関心が強く、コミュニケーションに多くのエネルギーを割いているチームは、自然に一体感を醸成できるようである[1]。メンバーはそれぞれ異なる思いや個人目標を抱きながら共通のチーム目標をめざすわけであるから、コミュニケーションはチーム目標を常に確認することに役立つ一方、個々の思いやモチベーションを互いに理解することにも役立ち、そうすることで一体感も上昇する。さらには、数値化しにくい尺度、たとえば努力の度合いなどを測る上でもコミュニケーションは威力を発揮する。自分では精一杯頑張っているつもりでも、他のメンバーから見るとまだまだ甘いということがあるかもしれない。コアミーティングでわかる範囲もあるが、具体的にどれだけ時間をかけているかなどわからない部分もある。これらを測るにはコミュニケーションしか方法がない。日々のプロジェクトへの取り組みに対するチームメンバーの意識が高く、かつコミュニケーションの頻度も高ければ、自分自身も意識をより引き上げてもらえることになるだろう。忙しいメンバーがいる場合は、毎日顔を合わせることは難しいだろうから、各チームで普段から情報共有のために使っているツールやメールなどを用いて上手くコミュニケーションをとっていくことが一体感の上昇につながる。

 これらの3つの項目が高まれば、チームメンバー同士の相乗効果も高まるようである。言われてみればそうだろうとは思うが、実践するのは難しい。今年度のPBLもあと2ヶ月を切った。各チームともラストスパートがかかり、上記のことはある程度自然にできているだろう。むしろ軌道に乗るまでが問題である。来年のPBLでつまずくチーム、悩むチームはチームスポーツの実践例等も参考にしつつ、プロジェクトを進めてみてはどうだろうか。

[1]渡辺康幸(早稲田大学競争部 駅伝監督),「総合力」で勝つチーム術 早稲田駅伝チームに学ぶマネジメント,日本能率協会マネジメントセンター,2011。

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