橋本 洋志学長 挨拶
本日、東京都立 産業技術大学院 大学に、入学されたみなさん、入学おめでとうございます。山本理事長はじめ、法人幹部、教職員ともども、みなさんの入学を心よりお祝い申し上げます。また、これまでみなさんを支えてこられた、ご家族のみなさま、関係の皆様に、心よりお祝い申し上げます。
本来、入学式では、入学されたみなさん全員と、本学 教職員が同席し、また、来賓を招いての入学式を挙行すべきところですが、この新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、また、入学生の個々の事情を配慮しまして、このような、対面とオンラインを併用した入学式にしたことをご理解願います。
本学は、東京都と産業技術界の要請により、2006年(平成18年)に設置され、これまでの間、専攻を改組するなどして現在は、1研究科1専攻3コース制をとっています。このコースとは、産業技術分野におけるスタートアップや事業承継を目指す人材を輩出する事業設計工学コース、情報システムの上流工程の設計や運営を担う人材を輩出する情報アーキテクチャコース、デザインとエンジニアリングを融合して新たな価値創出を担う人材を輩出する創造技術コースがあります。
これらは、産業技術分野の中核を成すものであり、これら三つが同時に存在するのは我が国において本学のみであります。本学は専門職大学院であり、多様な価値観の持った人が集まっていることに特色があります。
専門職大学院とは、文部科学省の定めにより、科学技術の進展や社会・経済のグローバル化に伴う、社会的・国際的に活躍できる高度専門職業人の養成に目的を特化した課程です。
この主旨に沿って、本学は、みなさんがコンピテンシーの獲得を一番の教育目標においています。コンピテンシーとは、本学では、現代社会で必要とされる複数の業務遂行能力と定義しています。本学が定めるコンピテンシーには、学際的であること、コミュニケーション力が高いこと、継続的な研究が行えること、さらには、発想力、表現力、実現力、そして、第三者の視点に立った評価が行えることの能力などを言います。このため、本学は研究成果に主眼を置いた修士論文審査を課しません。このコンピテンシーの獲得に効果的かつ効率的な学習メソッドは、PBLメソッドが適するとされています。PBLとはProject Based Learningの略で、ゴールを定めることで、不足している知識・スキル・コンピテンシーを修得するという、ニーズオリエンテッドな学習メソッドの一つです。
本学では、PBLメソッドをPBL型科目に展開しています。PBL型科目は、グループワークを基盤として、背景や価値観が異なる学生メンバー同士が刺激や啓発をお互いに与えることで、多様な価値の創出を行える能力獲得を目的とします。お互いに知識・スキルを補い合う過程で、コンピテンシーの獲得が図れるようになっています。
この学習過程において、本学の教員が優れた導きをみなさんに示します。本学の教員は、研究者教員と実務家教員からなります。いずれも、研究能力や実務実績が優れた教員ばかりです。例えば、研究に関して、査読付きの英語論文を出すだけでなく、国の代表的な科学研究費の代表者に約4割の教員がなっており、わが国有数の研究力と言えるでしょう。さらには、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)の研究費獲得もあります。これらだけではなく、地域や地元の問題抽出と解決をデザインとエンジニアリングの融合から果たした事例なども挙げられます。本学の教員は、これらいずれをも、優れた実績を上げています。
みなさんは、今後、本学の教員から、専門知識とスキルを教授されるだけでなく、この学習過程において、先のコンピテンシーの獲得を強力に支援されます。PBLでは、学生みなさんが自ら、テーマを設定しています。この実例として、昨年度は、例えば、
・「廃棄食品を活用した新需要創出」をプロジェクトの目標において、静岡県浜松市の企業と連携し、その地域の幅ひろい産業と人々に貢献できる成果を上げたものがあります。
また、
・日本の準天頂衛星を活用して、フィジー共和国の政府組織が利用するシステム開発に参画し、日本・欧州の共通災害危険通報メッセージを電力が途絶えても供給できることに貢献したものがあります。
・さらには、人工知能を活用して、都会のみならず過疎地において、社会的弱者が公共交通を安心して使える交通システムのデザイン論の展開があります。
これらは、いずれも社会貢献に資するものです。これらの成果を出すには、通常の学部や大学院の学びだけでは達し得ないものがあります。学生みなさんの社会人としての特筆すべきスキルが大きく貢献していました。
そして、何より大事な点は学生みなさんは、努力を継続していることにあります。単に「努力しなさい」と言われても、人間は何らかの動機が無ければ、努力を続けることはできません。
また、経験が多い人ほど、失敗を避けようとして、保守的な道を歩みがちです。確かに、企業や組織において、失敗は時として致命的になるかもしれません。
しかし、「失敗から学ぶことが多い」という言葉があります。本学の学びの精神は、企業文化や組織文化のものとは異なります。本学は、教育研究機関であり、大学院ですから、失敗があったとしてもみなさんの能力が高まることに価値を置いています。
そのため、自分の得意な形を一度、脱ぎ捨ててチャレンジングな発想や学びを是非、行ってください。チャレンジングを行うには、時間と労力が時として必要です。
そう、社会人の学びを阻害する大きな要因は、時間と距離と言われています。そのため、本学は、学びやすい教育システムを導入しています。幾つかの授業ではハイフレックス制を部分的に導入して、時間と距離の制約を他大学に比べて、かなり低くなるようにしています。
また、授業の録画を行い復習に効果的なオンデマンド配信があります。さらには、授業コンテンツの入手やレポート提出がオンラインで行えるLMS(Learning Management System)の活用などがあります。
また、LMSで非同期な質疑応答をクラウド上で行えることにより、学習者全員で疑問や解決方法の共有化を図れるという、まさしくネット社会で言われている集合知の修得も行えます。これらは、本学が誇る先端を行くDXを駆使した教育システムの活用で実現しています。
本学は、皆さんに活躍できるだけの新たなコンピテンシーの獲得を要望します。新たな価値観を磨いてください。そして、他者の価値観を認めることのできる多様な価値観を持ってください。
最後に、私からみなさんに、本大学院で学ぶうえで、聞いていただきたい言葉があります。
それは、
「世の中で起こってほしい変化を起こす人になれ」
これは、Mahatma Gandhiの言葉です。私は、この言葉に付け加えたいことがあります。それは、
「社会をより良く変えるために、あなたが求められているのならば、無償で自分の知識を公開する」
もちろん、この考え方は、現実社会では難しいことを存じています。ですが、このような精神が社会を変革することに繋がる、ということが歴史上あったことも事実です。
新入生のみなさん、本学で学び、新たな知識・スキル・コンピテンシーを身に付けてください。「学習は最高の自己投資です。」また、多くの友人も作ってください。
本日は、誠におめでとうございます。
令和4年4月2日
東京都立産業技術大学院大学
学長 橋本洋志