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川田誠一学長 式辞

川田誠一学長 式辞

本日、産業技術大学院大学に入学した情報アーキテクチャ専攻52名、創造技術専攻51名の皆さん、入学おめでとうございます。本日ご列席の来賓の方々、島田理事長はじめ法人幹部、教職員ともども、皆さんの入学を心からお祝い申し上げます。またこれまで皆さんを支えてこられたご家族や関係者の皆様に心よりお祝いを申し上げます。

 本日皆さんは本学で学ぶために新しい一歩を踏み出しました。

専門職大学院としてユニークな教育を実践している本学を選ばれ、入学される皆さんに敬意を表したいと思います。本学は平成18年開学以来、本日をもって学生募集総数1,200名、入学者総数1,262名、修了生総数872名となりました。産業技術分野の専門職大学院として、着実に社会に認知されてきました。この専門職大学院の制度上の特徴は理論と実務を架橋した教育を行うことを基本としつつ少人数教育、双方向的、多方向的な授業や事例研究や現地調査など実践的な教育方法をとること、研究指導や論文審査は必須としないこと、実務化教員を一定割合置くことなどが制度で定められております。本学はこのような基準に基づいて、教育システムを開発する中で諸外国の調査を踏まえて、開学当初からプロジェクトを中心に添えたプログラムを実施し、それを継続的に改善発展させてきました。先ごろその成果をAIIT PBLメソッドとしてまとめたところです。少しこの作成経緯をお話ししたいところです。本学の開学の設計していた当時、工学系の大学を中心に広く勉強されていた分野は、技術経営、MOTに関する大学院の設置でした。MOTのプログラム内容で各大学が重視していたことは何を教えるかということに加え、どう教えるかということです。従来の大学では、講義、演習、実習の3つの分類に沿って、旧来の教授法として教育がなされていましたが、先進な教育プログラムを取り入れようとしている大学ではケースメソッドやプロジェクト型教育、PBLなど当時としては斬新な教育手法の導入に取り組んでいました。本学の設計時にも、専門職大学院の特徴を生かした、かつ、社会人大学院生をターゲットとして効果的な教育手法を取り入れる学位プログラムの最終学年の教育方法とし、全面的にPBL型教育を導入することに決めたのです。当時、私が代表としていた東京都立大学大学院機械工学専攻 では、若手教員がフルブライト奨学金で、1年間スタンフォード大学に留学し、PBL型教育について調査を実施し、戻ってきました。これとは別に東京都立科学技術大学においても、1998年からインターネットを用いた遠隔PBLをスタンフォード大学と連携して実施するなどの取り組みがなされてきました。このようにのちの首都大学東京に合流する2つの大学においてPBL型教育を対象とした独自の調査研究と実践が始まっていました。私はオランダのデルフト工科大学やアイントホーフェン工科大学などを調査致しまして、アイントホーフェン工科大学では、機械工学とデザインを融合した新学科の教育を始めていました。その新学科ではすべての教育がPBL型教育で実施されていました。講義形式の理論学科は存在せず、すべて学生によるプロジェクトチームがプロジェクトを遂行させることで知識、スキル、コンピテンシーを獲得するという当然のことながら、新入生はプロジェクトを遂行するに足る知識に欠けています。それを補うのが教員による簡単なレクチャーです。あるプロジェクトを遂行するのに必要な知識体系については、教員がどのような体系が存在すのか、それがどんなものであるか、それを学ぶにはどのような書籍で学べばよいのか、学生に自学自習するのに必要なノウハウを教えるなど、学生自身の課題を解決するなど必要な知識などを学生は自分自身で学びます。もちろん教員は学生の質問には親切に答えますが、学修の主体はあくまでも学生であり、教員はそれをサポートします。2日間の実地調査で、アイントホーフェン工科大学の最終年の学生が私の調査の手助けをしてくれました。その学生の言葉は今でも思い出します。自分はこの後、ある企業に就職することが決まっている。この大学で学んだチーム活動について、課題を抽出し、自学自習し、課題解決に取り組む自信がつきました。この言葉は、今、本学の修了生の多くから聞くことになっています。

平成30年度入学式風景

このような調査を経て、本学が開学するのですが、大学院におけるPBL型教育を全面的な実施する上で、事前に様々な課題を解決する必要性を感じました。そこで、開学1年目に私が実施した授業科目が体験型学修特論でした。この授業では全10コマを通じて、短いPBLを実施し、主に社会人学生が中心となるプロジェクトにより、2年次に開始される1年間のPBL型教育の課題を抽出することにしました。まず、本授業の説明をしたところ、ある社会人学生が発言しました。自分は会社に所属しているので、他の学生に対してアイデアを容易に開示することはできない。このような授業が実施されたとしても、一言もしゃべることができない。こういうようなことが発言されました。私はではどのような条件があれば、授業に参加できますかと尋ねますと、参加する学生から守秘義務を守るように一筆書いてもらえば、納得して参加できる。そこで、PBL型教育に参加する学生には、守秘義務誓約書を書いてもらうようにして学生たちに納得してもらいました。その後、PBL成果発表会においても知財権の保護のために本学を特許庁に登録し、本学が実施する発表会の成果に対しては、半年間の知財権の保護を受けています。このような検討を進める中で、ブルームの教育分類に着目しました。これは教育の領域を「認知的領域」「情緒的領域」「精神運動的領域」のそれぞれに対して、知識、態度、習慣、技能に分類したものです。学習の成果は背景化、内面化、自動化にそれぞれ回帰します。この分類からわかるように講義を主体とした授業では、主として認知領域が主体であるという。ただ、知識の獲得と理解を講義では求めます。しかし、専門職大学院を受ける教育においては、実践的な問題解決や問題発見の力が学生に獲得させることが教育目的の重要な課題になります。特に社会人学生は、現実に抱えている課題などを解決できるようなことを重視しています。この目的のために本学では様々な調査を検討の結果、PBL型教育を導入し、現在に至っています。大学院案内では、この教育の考え方について次のように発信しています。社会で直面する技術課題は演習問題ではありません。一つの専門知識やスキルで解決できない課題がほとんどです。従来の大学院教育で実施してきた体系的な知識を獲得しているだけで、解決できるほど、現実の問題は簡単ではありません。むしろ従来の知識だけでは、この本質を理解することすら困難な複雑性を意味します。それぞれが技術横断的な問題解決を必要とするのに対して、本学ではこのような現実的の問題を高いレベルで解決できる人材を育成するために豊富な事例を用いた授業であったり、本学的なPBL型教育をすることで実践的な業務遂行する能力を獲得できるようにしました。まあ、こういったことを発信しています。PBL型教育の原点は、自らの力で原理原則に立ち戻り考えることと、高いコミュニケーション力を発揮して、チームで強固な壁を突破することにあります。これらの力を本学では全学生が獲得すべきコンピテンシーとしています。すなわち、コミュニケーション能力、チーム活用、継続的学習研究のノウハウという3つのメタコンピテンシーの獲得を皆さんに求めます。社会人のリカレント教育の重要性が国家レベルでも重要視されるようになりました。昨年6月に閣議決定された未来投資戦略Society 5.0においては、リカレント教育を受講する社会人の数を現在の約50万人から2022年には100万人に倍増させるというKPIが目標として掲げられました。ただ、大学院レベルでの社会人のリカレント教育を考えた場合、企業で開発・研究に取り組んでいた人たちが、大学院で博士の学位を取得するものを目指すものだと考えられていました。しかし、皆が研究者として生きていくわけではありません。むしろ、20代までに学んだことで生涯を通じてエキスパートとして活躍することが難しい時代であるからこそ、学び直しが必要だと考えています。どの年齢層においても新しい知識やスキルを獲得することが生きがいのある生活を営む上で必要となる。このことから本学では、シニアのリカレント教育についてかねてから検討を進めておりましたところ、島田理事長から本法人の目標としてグローバル、オンリーワン、シニアという課題をご提示いただき願ってもないチャンスを頂き、シニアスタートアッププログラムを本年度夏から開始させることに致しました。

平成30年度入学式風景

 また、日本の課題である少子高齢化特に少子化の課題は大きいです。この20年で20代の人口は200万人から120万人に減少しました。東京には人が集積し、東京の18歳人口の減少は少し先の話ですが、都にとっての少子化は先の話と考えられているかもしれません。しかし、人の活動はシステムの中にあります。東京は決して独自に孤立したシステムの中にいるのではありません。広く日本、世界とつながるエコシステムの中で発展しているのです。そのような意味で首都東京の産業の人口や都民の福祉を考えるにあたって、周辺都市、日本、近隣諸国、世界との連携という視野で、グローバルに活動することも東京都が設置した本学の役割だと考えています。本学ではアジア諸国との連携を視野に入れた活動も2011年から進めており、Asia Professional Education Network、略称APENと呼んでおりますが、御統括するパスを進めております。本日、中国人の学生が16名、韓国人の学生が2名、マレーシア人の学生が1名、ベトナム人の学生が1名、それぞれ入学されました。本学がグローバル化する中で、外国人学生の活躍は期待するところです。本学には多様な学生が入学しております。様々な世代だけでなく、職層も様々で、大学を卒業したばかりの方、企業の現場で活躍しているエンジニア、管理職、経営者などが本学の学生として学んできました。本学学生や修了生には社長をされている方も少なくありません。そういった方で組織した社長会も設置しています。外国人学生も留学生だけではなく、企業で活躍されている外国人の方も毎年入学されています。このような学生たちが同じ立場でチーム活動するような学習環境は、わが国では本学でしか見られないといっても過言ではありません。今日の皆さんは22歳から72歳までの同窓生、友人を得ました。6割の学生が40歳以上、4割の学生が40歳未満、ワクワクする学びの環境が整いました。新入生の皆さん、どうぞ本学で学び、キャリアアップ、キャリアチェンジ、スタートアップする力を獲得してください。

本日は誠におめでとうございます。

 平成30年4月7日
産業技術大学院大学学長 川田誠一

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