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川淵三郎理事長 挨拶

川田誠一学長

 学位を授与された皆さん、本日は誠におめでとうございます。私が言うのも変ですが、ちょっとお年をお召しになった方も結構おられたので、心から嬉しく思いました。

 大学院に行くべきか悩む、そういう思いがあった中で、この2年間あるいは3年間、その葛藤の中で見事卒業されたということに対して、心から祝福したい、そういうように思います。そして民族衣装を着てこられた方がいらして、なんか華やかな雰囲気が出てとてもよかったですし、ヒールをはいた女性が登壇してきたときに滑りやしないかと心配しながら無事に授与されて、ほっとして嬉しく思いました。そして、後ろにおられるご家族の皆さん、多分奥さんという感じの方ですが、こういう奥さんがご主人のこの2年間、3年間の努力を一緒に喜ぼうということで、ここに出席していただいたことに対して、他の卒業式なんかでは見られない雰囲気で、今日この授与式はそういったいろんな僕の思いも重なって、とても素晴らしい授与式であったと思います。

 話は変わりますが、人工知能、いわゆるAIの技術は日進月歩をはるかに超えるような速さで進展しています。AIが囲碁の世界名人である韓国の棋士に勝って、世界中がショックを受けたことは記憶に新しい。その前に将棋が日本のトップ棋士に勝って人工知能はもう将棋を越えたが、しかし囲碁は、あと10年は勝てないだろうと誰もが思っていましたし、私もそう思っていました。

 それがこんなに早く囲碁で人間の名人を破るなんて誰も想像していなかっただけに、その頃の雰囲気は、そのAIがこれからどんどん発展していって、30年後に、そのときで言うと2045年に、人工知能は人間の頭脳を越えるだろうと言われて、それが人間を支配することのきっかけになるのではないかなという、ある種ネガティブな、悲観的な、悲壮的な、いろんなそういう新聞記事が出されました。今はかなり落ち着いていますけども、その頃に言われたことは、社会のいろんな仕事に関してロボットがどんどん発達して、10年後、20年後には人間がやる仕事の多分50%はなくなるんじゃないかという風なことが言われていた、そういった中でそのAIの登場でしたから、何か全体にショックを受けたという印象でした。しかし、そのときから、それとは別にというか、人間の社会にはいろんな問題が起きています。 いろいろな技術の向上によって、人間の社会は当然豊かになり、暮らしやすくなり、それで生活の余裕ができるはずのものが、今は貧困の問題や、老人のいろんな問題、そして介護士の不足、もう世界中の問題が想像以上に増えていて、科学技術の発展によって人間社会が幸せなよりよい、時間に余裕のできる社会に移行していくということとは、まるで違うような方向にいっている、という風に僕自身も思っています。

 そういった中でそれをどう変えていくのか、これからの社会の中で皆さんこそが、そういうことに対して、よりよい生活、よりよい幸せな社会、よりよい豊かな社会、そして余暇を楽しめる社会にしていくために、この大学院で学んだことを日常のどの中にどう活かしていくか、それが皆さんに今1番求められていることであるし、2年間そういったものを学んでいただいたんだという風に思います。

 学ぶ気持ちというのは仕事に就いてからでも、学びというのは僕自身も一度だけちょっと経験がありますが、とても大変なことで、もうあんまり学校へ行きたくないなぁという気持ちになるのは自然のなりゆきというか、僕なんかは途中でもう投げ出してしまいました。そういった意味では、卒業された皆さんには、それだけでも強い意志と高い能力とがあるわけで、そういったことに少しでも力になっていただければ嬉しいなという風に思っています。

 僕はあるとき、相当昔ですけども、ピーター・ドラッガーが流行っているときにですね、彼が言っていることを必死になって一生懸命に覚えた言葉があります。それは「知識は絶えず磨かれ、鍛えられ、そして育まれなければならない。怠れば衰退あるのみ。」そういう言葉です。要は今素晴らしい知識を身に付けても、それはちょっとある程度の年齢、年代が過ぎていけばその知識はどんどんと変わっていくわけですよね。今、そういうものを自分の身に付けたとしてもそれはすぐに衰えていくということで、そういう風なことを皆さんに言うのは釈迦に説法かと思いますけれども、これからもそういう気持ちを忘れず、そしてまた5年後、10年後にこの大学院でもう一度学ぼうという風な気持ちになっていただければ、この日本の社会は安泰だという風に思っています。これからのみなさんの活躍を祈念して、今日のお祝いの言葉といたします。今日はどうも本当におめでとうございました。

平成29年3月18日
公立大学法人首都大学東京 理事長 川淵三郎

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