第152回コラム
産技大周辺の散策路
2025年10月1日
助教:中内 遼吾
アイデア出しに詰まった時、仕事終わりに外を歩きながらブレストすることがあります。部屋にこもってウンウン唸って考えるよりも、歩きながら考える方がリラックスできてスムーズにいくことがあるからです。例えば京都には、哲学者の西田幾多郎が毎朝歩いて思索を深めたことで知られる「哲学の道」という観光名所の道があります。同じく哲学者のイマヌエル・カントも、毎日決まった時間に決まった道を散歩することを日課としていたことが知られています。もちろん私の場合はそんな大それたものでは全くないので、これらを引き合いにだすと少し恥ずかしいのですが、歩きながらブレストするのが効果的だというのはそれなりに多くの人に通ずる話ではないかと感じています。
産技大に着任したあと、ブレストに向く道はないだろうかとキャンパスの周りを歩いてみました。産技大は都会のど真ん中もど真ん中。いかにもコンクリートジャングルな景色の中にありますから、この辺りに詳しくなかった当初は全く期待していませんでした。しかし意外にも、キャンパスの近くにはブレストに向く静かで雰囲気の良い道が多くあるのです。
お勧めのルートを一つ紹介してみたいと思います。まずキャンパス北東端側の交差点を渡ったところにあるスロープと階段をのぼって八潮橋に出ます。ここを東へ歩くと、すぐに京浜運河に出て広い水辺を見晴らすことができます。運河とありますが、両岸とも元々は海だったところを造成した埋め立て地です。このため流れているのは海水であり、潮の匂いを感じることができます。戦前はこの辺りから大森海岸の方にかけての海域で海苔が盛んに生産されていたそうです。そのまま東側へ渡って対岸の大井ふ頭に降り立ち右手の脇道へ入ると、京浜運河緑道公園という運河沿いの散策路に出ることができます。この道がルート一番の魅力ある場所です。「哲学の道」に負けず劣らず(?)、一瞬ここが東京であることを忘れそうな雰囲気も感じられる空間になっています。両脇を高木がみっちりと囲んでいて、西側には京浜運河を挟んで本学のキャンパスも望めます。
ここをゆっくり歩いて十分ほど南へ下ると、「かもめ橋」という橋が見えてくるので、これを渡って対岸の勝島に出ます。この橋は八潮橋と異なり歩行者専用橋です。車がいない分、橋の上では水辺の穏やかさをいっそう感じることができます。運河が南北に流れているので水面に陽の光がきらめているのが見える時間帯が長く、眺めているとなかなか癒されます。橋を渡りきってすぐ北を向くと、ここも運河沿いに小道があり、引き続き水辺を楽しめる場所になっています。道なりに進み、勝島かもめ水辺広場を抜けて勝島運河沿いに至ると再び本学の建物を望むことができます。キャンパス名に「シーサイド」とあるだけあって、たくさんの親水空間が近くにあるのは隠れたチャームポイントです。そのまま進むと鮫洲橋に出られるので、これを北に渡って歩くと間もなくキャンパスに戻ってくることができます。少し早めに歩いて30分少々でしょうか。運動不足を感じたときの仕事終わりに歩くこともあります。
今回紹介したルートでは通りませんでしたが、大井ふ頭には「なぎさの森」という野鳥観察もできるより本格的な森や、「つばさ浜」という潮干狩りが楽しめる砂浜まであります。本学へお越しになられた際にはキャンパス周辺をぜひ散策してみてください。古くからの町場の雰囲気と埋め立て地特有の整ったオープンスペースが交錯し、意外な魅力が見つかる地域です。