第130回コラム「お正月にマスクを作る」
2021年4月27日
飛田 博章 教授
コロナ禍の影響によるマスク需要の高まりとともに、素材やデザインのバリエーションに富んだ様々なマスクが販売されている。マスクにより飛沫抑制効果があることは、スーパーコンピュータ「富岳」によるシミュレーションでも報告されている[1]。シミュレーションでは、マスクをした場合としない場合の飛沫の広がりの視覚化や、不織布マスクと手作り布マスクの飛沫抑制効果の比較が行われ、CGによる飛沫拡散のアニメーションをニュースなどで目にした人は多いはずである。ちなみに著者は布マスクと不織布マスクを用途に応じて使い分けていて、形や色などデザインにこだわりはない。
ウイルスを防ぐ機能だけでなく、新しい機能を持たせたマスクも登場している。例えば、フィリップス社が販売しているブリーズマスクは、マスクに小型のファンを組み合わせることで空気の換気を効果的に行うとともに、マスク内の蒸れを防ぐ効果もある[2]。当然、花粉、ウイルスなどへ対応するマスク本来の機能も有している。このマスクの価格は約1万円と一般的な不織布マスクと比べると驚くほど高価であるが非常に人気がある。ブリーズマスクでは、マスクをデバイス化するアプローチがとられているが、カメラなどのセンサーを備えたgoogle glassのような眼鏡型デバイスとは異なり、公共の場でもデバイス化されたマスクを普通に身に着けられる点にも特徴がある。
このようにマスクをデバイス化するアプローチは、製品だけでなく、各地で開催されているMakerのイベント(Maker Faire)やものづくりワークショップなどでも、自由なアイデアによる斬新なマスクが数多く提案されている[3]。好きな布を選んでマスクを作る「手作りマスク」自体は既に多くに人が実践している。しかし、Maker Faireでは顔だけではなく頭も覆うマスクのプロトタイプが紹介されたり、3Dプリンターで出力できるデータとともにマスクの作り方を公開したりと、Makerらしいアプローチが見られている。著者が担当する講義「IoT特論」でもマスクをデバイス化する課題を学生に課すこととした。
IoT特論は、2020年度4Q (2020年12月-2021年2月) に産技大の情報アーキテクチャコースで開講した授業である。この講義は2019年まで成田先生が担当されていて、主にインターネット技術にフォーカスを当てた授業だったが、2020年度からArduino(ワンボードマイコンの一種)などの基盤を使う授業へと内容を変更した。IoTはInternet of Thingsの略で、デバイス、ネットワークや、データ処理などを組み合わせた新しいサービスやシステムによるモノのインターネット化として数年前から注目されている(注:IoT自体はバズワードであり定義の仕方は様々である)。授業は、IoTの理論的なトピックも扱うが、Arduino基盤を使ったプロトタイピング演習を適宜交えながら進め、実際に手を動かして動作を確認するハンズオン形式を採用した。情報アーキテクチャコースではソフトウェアに関する授業が大半を占めていて、ハードウェアを扱う授業はほとんどないためArduinoを初めて手にする学生も多かった。また、授業はZoomで行ったため、教室での対面授業のように、学生の手元を直接見ることや状況に応じたアドバイスができない。こうした点から、各種センサーの使い方など基本的なことから丁寧に伝えることを心がけた。
4Qはクリスマスとお正月休みがあり、その期間に履修者には申し訳なかったが課題を出すこととした。お題は「Arduino+マスク」によるアイデアのプロトタイプとその発表とした。まず、既存のマスクの課題を設定し、マスクのデバイス化により解決するというものである。また、完成度よりもプロトタイプとしての面白さを重視し、100円ショップや身の回りにあるものなどを利用するようにお願いした。今年からの担当で内容も新しくしたことから、どんな発表があるのか不安と期待で年明けの授業を迎えた。
プロトタイプ発表会を行うに際し、履修者が20名いたため一人4~5分の発表とした(実際には授業時間を数分オーバーした程度で何とか収まった)。似たアイデアもいくつか見られたが、プロトタイプで作ったものや見せ方はそれぞれの個性が出ていた。会話を支援するマスク、食べ物が口に近づいた時だけ自動で開閉するマスクや、空気の入れ替えを行うマスクなどが多く見られ、身近な素材を使いながらプロトタイプをまとめていた。特に、簡易ヘッドフォンを分解して必要な部品をプロトタイプに組み込んだマスクや、頭上の新鮮な空気を効果的に取り込むマスクは写真やデモビデオのインパクトも大きく興味深いものとなった。履修者のコメントも多かったように思われ、学生同士お互い良い刺激になったのではないだろうか。
来年度も引き続き担当予定であり、授業内容の精査とともに新しい課題の準備を進めている。本学では授業アンケートを履修者にお願いしているが、実際に動作を確認しながら進める授業形式はおおむね好評だった。ただし、発表会では一人の持ち時間が短いため発表後のQ&Aも簡潔になってしまう点は改善が必要と考える。プロトタイプ発表会は次年度も引き続き開催予定で、良い意味で期待を裏切ってくれる発表があることを楽しみにしている。
1. https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1272611.html