第123回コラム「感染症対策下で「ヴァーチャルキャンパス」が誕生」
2020年9月8日
中鉢 欣秀 教授
令和2年度は、新型感染症(いわゆるCOVID-19)の蔓延により、世界中の多くの大学で対面による授業ができず、オンラインによる授業を実施している。感染症対策という特殊な事態の発生で、学生も教員も新しい行動様式が求められるようになった。
本稿では、このような中で実施した前期の授業を振り返り、感染症対策下で私が行った授業の様子を振り返ってみたい。
1Qで開講したのは「情報アーキテクチャ特論3」である。授業の内容は、UMLを活用したオブジェクト指向によるモデリングに関する知識の習得と、モデルを作成するための技術の獲得である。
この授業はもともと、オンデマンドによる授業動画の視聴と、対面による同時双方向による授業を交互に実施するブレンデッド型である。従って、従来対面で行っていたコマを、今年度は遠隔で実施することとなった。また、対面で実施していたコマでは、動画の内容の復習、モデルを作成するためのツールの利用法を説明して、課題の演習と質疑応答、提出された課題のレビュー、という流れであった。
この授業に関しては、もともとブレンデッド型であったこともあり、半分はオンデマンドによる動画の視聴をするものであったので、遠隔での授業になってもほとんど問題なく、予定通り進めることできたと言えるだろう。今回、遠隔により実施したことのメリットとして、履修者が提出した課題をダウンロードし、ツールでUMLのモデルを開き、モデルをレビューして様々な解説をするまでの一連の流れが、対面時よりも円滑に行えたように感じられた。パソコンの画面から目を離さずに解説に集中できたのが良かったかも知れない。
一方、2Qで行ったのは「コラボレイティブ開発特論」である。この授業は、名前の通り、チームメンバーがコラボレイティブに共同でソフトウエアを開発することを体験する授業である。通常では、グループ編成を行い、共同でソフトウエア開発を行うためのツールであるGit/GitHubの演習をして、再度グループを編成し直してアプリ開発に進む。開発中は、ホワイトボードや付箋等を活用して作業の見える化を行い、「わいがや」で開発演習を行う。これを遠隔で実施するにはどうしたらよいか、簡単には答えが出なかった。
一つ行った工夫は、授業中にアイスブレイク的な位置づけで、いろいろなクラスメイトと話す機会を設けることだった。授業の履修者には、一度も顔を合わせたことのないクラスメイトも多いだろうと予想したからだ。最初の方の4コマを用い、ランダムにグループ編成を行って感染症対策とソフトウエア開発をテーマとしたディスカッションを行ってもらった。毎回ランダムにメンバーを変えることで、多くの学生が顔見知り(?)となったはずだ。ディスカッションも盛り上がり、毎回の発表も興味深い内容が多かった。
このことが良かったのか、その後の開発演習は各チームで和気藹々と実施することができた。驚いたことに、成果物の質も昨年度までと遜色無かったばかりか、むしろ良かったと思えるものもあった。当初の不安は完全に杞憂に終わった。また、18:30からの授業にかかわらず、遅刻者が例年よりも少なかったのも遠隔で授業に参加できることの効果だったようだ。
当初、誰もいない教室で、一人PCに向かって授業を行うことは、教員としては正直に言って不安であった。しかし、遠隔ならではの特色を理解し、それを有効に活用することで従来と同等以上の授業にできることが今回の経験で分かった。授業は必ず教室に集まって行わなくてはならない、という従来の概念は覆され、まさにインターネット上にヴァーチャルキャンパスが形成されたのである。
さて、今後感染症が一段落し、通常通り対面で授業ができるようになったとき、100%対面の授業に戻すべきなのか、100%遠隔で良いのか、対面と遠隔との組み合わせが良いのか、ということを考えなくてはならない時期が来るだろう。基本的に、遠隔でできることは遠隔でする、対面が必要なときは教室に集まる、ことが良いのだと思うのだが、現在の感触では「遠隔でできることも結構多いな」と感じている。単に対面に戻すのではなく、せっかく形成されたヴァーチャルキャンパスの特性を把握して有効に活用し、学生の皆さんにとってよりよい学習環境が提供できるように今後も工夫を続ける必要があるだろう。