English

第78回コラム
本格的にアジャイル開発を学ぶAIITのenPiTプログラムの取り組み

情報アーキテクチャ専攻 中鉢 欣秀 准教授

 平成24年度に始まり、25年度から本格的に開講したAIITのenPiTプログラムも3年目が終わろうとしている。この間、様々な改善を繰り返しながら、主としてアジャイル型のソフトウエア開発についての実践的知識を学ぶことのできる教育の「場」を提供する取り組みをしてきた。このプログラムは文部科学省の助成事業であり、来年度で一応の区切りとなる。このコラムでは、3年間の途中経過として、enPiTプログラムの特長を述べたい。
 enPiTの全体像について説明すると、このプログラムは全国の15大学(大阪大学、東北大学、筑波大学、東京大学、東京工業大学、名古屋大学、神戸大学、九州大学、九州工業大学、北陸先端科学技術大学院大学、奈良先端科学技術大学院大学、公立はこだて未来大学、産業技術大学院大学、慶應義塾大学、情報セキュリティ大学院大学)が中心となって実施している。各大学は4つの分野(クラウドコンピューティング、セキュリティ、組込みシステム、ビジネスアプリケーション)に分かれ、それぞれが特色のある教育を実施している。
 AIITは、筑波大とはこだて未来大と共にビジネスアプリケーション領域に所属している。将来、又は、現在、ビジネスアプリケーションの開発に関わる実践的なエンジニアの実務遂行能力向上を目指している。本学ではとりわけ、冒頭述べたとおり、近年、注目されているアジャイル開発の教育に焦点を当てている。産業界においてアジャイル開発に対する関心は高まっているが、会社の実務においては経験不足や従来の開発プロセスからの移行が難しく、なかなか導入できないケースが多い。このような悩みを持っている社会人にも門戸を広げ、実務で利用可能となる実践知識を教育するための場を提供している。
 アジャイル開発の方法論としてはScrumを取り上げている。開発に先立つビジネスアプリケーションの企画段階ではリーンスタートアップの考え方を取り入れている。更に、PBLにおいてはハッカソンの考え方を取り入れ、「Demo or die」方式でのレビューを徹底している。
 このDemo or dieの考え方が、本学のプログラムにおける最大の特徴の一つだと言って良いだろう。週一回のレビューでは、実際に動作するソフトウエアのデモンストレーションが最も大事であり、発表するという目的のためだけにプレゼンテーション資料などを作成することは許されない。また、GitHubのコミットログ、継続的統合による自動テストの結果などの生データも確認され、ごまかしの効かない真剣勝負の発表の場となっている。
 本学のenPiTでは、以上述べたスクラムコースのほか、グローバルコースも実施している。こちらでは、グローバルに活躍できる人材の育成を目指し、ベトナム、ブルネイ、ニュージーランドの有力大学と連携したプロジェクトを遂行する。各地で異なるマーケットニーズを捉え、国内の感覚では発想できないソフトウエアやIoTデバイスの開発を行う。当然、コミュニケーションは英語で行っており、エンジニアに必要な語学力も鍛えられる。
 最後に、このような最先端の教育の場を提供する教員は、自らも継続的に学ぶ必要がある。ビジネスアプリケーション領域の教員は自主的に集い、FD活動を行っている。昨年(平成27年)の夏には各分野の教員がはこだて未来大に集まり、Scrumコーチも交えてPBLの改善をテーマにFD合宿を実施した。また、本学を会場として教員によるLightning Talk大会を2回実施している。このような取り組みを通し、教員間の連携も深めている。enPiTプロジェクトは来年度で一区切りとなることは先に述べたが、このような教員同士の繋がりを今後も継続し、より実践的かつ高度人材育成のための教授法に関して研鑽を深めていきたい。

PAGE TOP