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石島辰太郎学長 式辞

石島辰太郎学長

 本日産業技術大学院大学修士課程を修了し、学位を取得された情報アーキテクチャ専攻35名、創造技術専攻45名のみなさん、おめでとうございます。
 今年度は、本学にとりましては、平成18年4月の開学以来、10年目となる記念すべき年でございます。そういう意味で、みなさんは、本学の歴史上、記念すべき修了生ということになるわけでございます。また、私事でございますが、私はこの3月に10年間となりましたこの大学での学長任務を終了いたしまして、みなさんと一緒に本学をあとにすることになります。というわけで、私にとりましても、この式典は、産業技術大学院大学での最後の式典ということになりまして、大変感慨深いものでございます。
 すでにみなさんは、体験されてお分かりだと思いますが、本学は70%以上の学生が社会人であり、学生の年齢層も22歳の方から60歳代までと非常に幅広く、職業経験も多岐にわたるなど、他の大学にはあまり見られない多様性にとんだ大学であります。そしてこの、多様性にとんだ学修環境こそが本学の最大の特徴と言えます。過去の修了生もこの点を高く評価してくれております。
 みなさんが本学で経験されたPBLでは、プロジェクトチームをつくるプロセスにおいて、おそらくこれまで経験したことのないようなユニークでまた困難な課題の克服を強いられたことと思います。チームの能力を最大限に高めるために必要となるコンピテンシーの強化こそが、スーパープロフェッショナルを育成するという本学の教育の最大の目標であります。従いまして、学位を手にされたみなさんは、ご自身のコンピテンシーを大きく向上させていただけたものと確信しております。お手元の学位記に添付されておりますディプロマサプリメントは、その事実を証明する資料でございますので、ぜひともご自身で確認をしていただきたいと思います。

 さて、本学では3つのコンピテンシーをメタコンピテンシーとして、特に強調しております。コミュニケーションの力、継続的学修と研究の能力、チーム運営能力、この3つでございます。この中で、コミュニケーション力とチーム運営能力というのは、人とのかかわりの中で生まれる力でございますので、PBLのようなグループ学修の中で強化されることは、容易に納得できることと思います。しかし、2番目に申しあげた継続的学修と研究の能力、これは専ら個人的な資質であるとお考えになると思います。従って、他の2つのコンピテンシーとは違うのではないかという印象をお持ちの方が多いのではないかと思います。
 では、なぜ本学ではこの継続的学修と研究の能力を、メタコンピテンシーとして、位置づけているのでしょうか。
 それは、現代社会の技術進歩のスピードと密接に関係しております。有名な経済学者であります、ピーター・ドラッカーは、18歳までの学校教育は、知識労働者として知識を身に着けるためであり、継続的学習は知識を最新に保つために必要であるという主旨のことを言っております。少し、言い回しは違うかもしれませんが、現代のビジネスマンは、数年に1度は、数ヶ月間に及ぶような体系的な学習が必要とされるということでございます。
 これこそが、本学が継続的研究と学習の能力をコンピテンシーとして採用している理由です。即ち現代のプロフェッショナルは社会との関係において学びかつ研究し続けることを強く要求されているわけであります。つまり、みなさんがプロフェッショナルとして、存在価値を持ち続けるためには、対社会的能力とでもいいましょうか、社会と常に交渉していく、そのために、継続的学修と研究の能力が必須となるのでございまして、みなさんは、その重要性をPBLの中で他の方々からの触発によって、体感的に理解していただけたのではないかと思います。このコンピテンシーは、今日、学位を手にされたみなさんにとって、極めて重要なものとなると考えております。
 時として軽視されがちなこのコンピテンシーを常に意識していただく仕組みとして、来年度から本学では、ラーニングフェローという生涯学習の仕組みをスタートさせることになりました。みなさんは、学位取得と同時に、今日から、ラーニングフェロー制度で最高位のゴールドという称号をお持ちいただくことになります。ただし、放っておきますと、この称号は、ゴールドからシルバー、シルバーからブロンズに落ちてきてしまうので、今後は、本学が提供する仕組みを活用して、ぜひゴールドの称号を維持していただきたいと思います。それが、みなさんの継続的学修と研究の能力を高い位置で維持することになると考えます。また、こうした努力を継続することこそが、社会の負託に応えて仕事をする、プロフェッショナル人材の責務であるともいえると思います。

 最近注目を浴びましたニュースで、囲碁の国際的な一流プロ棋士がGoogleの開発したアルファ碁という人工知能に4勝1敗で敗れたというものがございます。囲碁の局面数は10の何百乗、三百か四百かはっきり覚えていませんが、何百乗といった天文学的な数でありまして、その中から最善手を見つけ出すことは、従来の技術で考えますと、当分先になると考えられておりました。しかし、ディープラーニングという手法によりAIの技術を用いて、プロ棋士を破るのにだいたい6ヵ月くらいしかかからなかったといわれておりまして、非常に早いスピードで人工知能が進化したということが、大きな驚きをもたらしたわけであります。情報技術関係では、他にも生産現場にいわゆるInternet of Things、IoTを持ち込んで、サイバーフィジカルシステムズという概念により、ドイツではIndustire4.0と言われているような製造業の全体のシステムの革新をもたらすといったことが提案されております。こうした事実の特徴は、これらの技術が極めて広い範囲の産業分野に影響を及ぼすことでございます。このように、激しく変化する産業現場の技術環境に身を置き活躍するプロフェッショナルは、一刻といえども学修を止めることはできません。即ち継続的学修と研究の能力は、社会と対峙しなければならないプロフェッショナル人材にとって必須の能力でございます。産業技術大学院大学は、みなさんのこうした学修意欲に応え、多様で挑戦的な学修環境を提供する、いわば道場のような場所でございます。
 みなさんは、本日の学位授与式を境にして大学との縁が切れるというわけではございません。今後も大学との縁を大切にしていただいて、学修の場として活用いただければと思います。社会人の多くの方々は、大学就学前と大きく生活が変わるというわけではないかもしれません。しかしながら、この大学で学修し学位を取得された成果や経験が、これまでの迷いや閉塞感を取り払って、入学の前よりも充実したプロフェッショナルとしての人生を感じていただけるのではないかと思います。
 今後も日常的に大学の資源をご利用いただき、いつでも大学に戻ってきていただきたいと思います。格別1回しか卒業してはいけないという法律はないわけですから、何度でも卒業していただけるかと思います。私も今日みなさんと一緒に本学を離れますが、大学を継続的研究と学習の場として、見守ってまいりたいと思います。
 最後になりましたが、本日までみなさんの学修が無事にしかも効率的に進むようにコーチングしていただいた教職員の方々の努力に謝意を表します。また、みなさんの学習生活を支えてこられたご家族を始めとする関係者の方々には感謝と御礼を申し上げます。さらに、本日みなさんの修了をお祝いするためにご臨席いただきました来賓のみなさま、ありがとうございます。
 最後の最後になりますが、様々な困難を克服して今日の日まで学修を辛抱強く、おそらく非常に大きな犠牲も払いながら学修を続けてこられたみなさんの熱意と努力に最大限の敬意を表しまして、私の式辞といたします。
 みなさん、本当におめでとうございます。

 平成28年3月19日
産業技術大学院大学学長 石島辰太郎

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