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教員連載コラム

不確かな未来との対話

  • 103回コラム

    道具からワークショップと身体を考える

    創造技術専攻 金箱 淳一 助教

私は今春、本学に着任して早々にワークショップの機会に恵まれた。
「クラップライトドローイングワークショップ」は拍手のエネルギーで発電してLEDを光らせる装置「クラップライト」を使って、カメラの前で拍手をすることで光を写真として焼き付けるワークショップである。

上の道具を思いついた(というよりも気付かされた)のは、現在も続く聴覚障害者との音楽に関する研究において、当事者とディスカッションした時の
「暗い中でも、拍手が見えたら面白いのになぁ」という何気ない一言である。
その言葉の意味が、はじめは分からなかったが、よくよくコンサートの環境を考えてみると、一般的には演奏者にスポットライトがあたり、観客席側は薄暗いことも多い。暗い中では、拍手もよく見えず、聞こえにくいとどんなリズムで盛り上がっているのかが分かりづらい。
自分はそんなことにも気づかなかったのか、と一瞬反省したあと、すぐにデバイスの試作に取り掛かった。

 まずは、拍手のエネルギーを電気にする仕組みを考える。
「衝撃 エネルギー 発電」とwebの検索窓に入力して、エンターを押せば、数クリックでその原理にたどり着くことができる。
どうやら圧電素子というものを使えば、衝撃エネルギーを電気エネルギーに変換できることを知った私は、その足で秋葉原に走った。
電子パーツ屋で圧電素子とLEDを買って、薄暗い路地裏で早速試してみた。傍から見たらかなり特異な行動に見えたと思う。
なるほど、圧電素子にLEDの足を当てて曲げてみると、確かにチカチカと光っている。
「これを手につけるのだ」と次に私は、100円ショップに走った。
いろいろ物色していると、指にはめられそうな小さなヘアゴムを見つけた。
家に帰ってLEDと圧電素子をホットボンドで強引にヘアゴムに留め、力いっぱい手を叩いてみた。
なるほど拍手でLEDが光るし、ヘアゴムで指にはまっているから外れることもない——

これがクラップライトの始まりである。
上の背景から制作を始めたこの道具であるが、幾度の改良を経て今はライブコンサートや結婚式の入場演出、スポーツのパブリックビューイングなどで活躍し、多くの人を笑顔にしている。

クラップライトは2011年に制作に入ったのだが、その年に日本は東北大震災に見舞われた。
当時、プロジェクターなどを駆使した作品を制作していた自分は、ライフラインが瞬断された時のメディアアートの弱さを感じていた。
ライフラインに依存しない形で、作品を成立させることができないかと考え、クラップライトで作品表現を行おうと考えた。
光を使ったドローイング作品は過去にも多く提案されているが、自らの拍手によって発電したエネルギーで描く表現行為は新規であると捉え、 ここを深掘りすることによって新しいドローイングの可能性を提案しようと考えた。
拍手は、応援や賞賛などのポジティブな感情表現として、万国で通用するものである。ポジティブな感情を、自らの意志の力や身体の動作によって一枚の写真に焼き付けるワークショップは、既存のドローイングとは異なる表現手法として成り立つと考えた。
一番はじめのクラップライトドローイングワークショップの舞台として、石巻を選択した。手前味噌にはなるが石巻Clap Drawing Projectのコンセプトの抜粋を下に記載しておく

311以降、人と電気エネルギーについての再考が始まっています。 メディアアートがライフラインとしての電気エネルギーに依存する関係にある中で今、アートを通してエネルギー問題について考えることは必然であると捉えています。 ーー
2012年に行ったワークショップの実施場所として、私は石巻を選択しました。石巻に住む子供達は、それまで当たり前の存在だったライフ・ラインが一瞬のうちに断ち切られてしまう「不確かなもの」であることを知っています。その不確かさの先に見える、個人が持つ生命力としてのエネルギーは、拍手とともにいつまでも輝き続けるでしょう。人と電気エネルギー、その関係性を再考するため「いま、からだ」を使って表現しましょう。考えるのは「いまから、だ」。


このワークショップを通じて感じるのは、身体を通して学ぶことの多さである。
ワークショップでは30秒間かけて1枚の写真を撮影する。カメラのシャッターを開きっぱなしにして撮影する長時間露光という撮影方法を用いるのだが、 カメラの前で意味もなく闇雲に拍手をするという行為がなかなかに滑稽で面白い。意味もなく拍手をしていると、途中からふとなんとなく気持ちが明るくなる気がするのだ。
撮影終了後に一枚の写真をみんなで共有して、「あ、〇〇ちゃんの光だ!」とか、「僕は右端にいるよ、青色の点がたくさんあるから」などと、写真を通してコミュニケーションする。 ここで生まれるのは、自分の体の動かし方と撮影された写真との因果関係に関する考察である。 因果関係が分かると、次にどんな体の動き方をしながら拍手をするか、という戦略が生まれる。自分の身体と対話して、その結果を共有して楽しむのがこのワークショップなのだ。 何度やっても新しい発見があり、そのたびに新しい身体運動、そして絵画表現につながっていく。 人間は物事を頭で考えるのではなく、体で考えているのではないか、と思わせてれくれる。 クラップライトという道具をうまく使って表現しようと考えることから、体の動きが変わる。

私は「人が思わず〇〇してしまう」そんな道具や環境を作りたくて、日々研究と開発を進めている。教員として大学に関わっているが、学生の方々から得られるものは多く、それが新たな刺激となって制作に繋がっていく。作って、触って、考える、そんなものづくりの教育を本学で実践していきたい。

参考:クラップライトドローイングワークショップ
http://www.ntticc.or.jp/ja/channel-icc/blog/2014/08/kids2014_07/

https://aiit.ac.jp/opi/tokyo_to.html

クラップライト
http://kanejun.com/works_claplight.html

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