学長あいさつ

産業界におけるスーパープレイヤーの育成
産業技術大学院大学は、首都東京の産業発展をトップランナーとして担う高度専門職人材の育成を目的として設立された公立の大学院大学です。本学には東京に集積する産業の実体や近未来の予測に基づき、情報アーキテクチャ専攻と創造技術専攻という2つの専攻からなる産業技術研究科が設置されています。
知識社会と呼ばれるように、21世紀を迎えた今日では、資本や資源を超えて知識こそが最も重要な社会資産であり、その豊富さが社会の富を構成する最大の要素となります。しかし、知識は、それがいかに優れた科学的知見であれ、社会的な制度であれ、すばらしいビジネスモデルであれ、それらを活用し社会の富へと変換するための総合的な行動力が伴わなければ単なる紙片と同じことになります。
すなわち、知識はそれを活用し、社会の問題解決に資するプロジェクトを創造し、そのプロジェクトを遂行していくという"人の能力"と融合して初めて社会的富へと変換され、社会にイノベーションをもたらすことになるわけです。言い換えれば、高度な専門知識、高度なスキル、そしてプロジェクトを遂行するための高度な業務遂行能力(Competency)を併せ持つ人材の豊富さが、社会の豊かさを最もクリティカルに左右する要素となるわけです。私たちは、こうした人材を高度専門職人材と呼び、その育成を目指しています。
業務遂行能力を重視した教育内容
従来の大学教育を初めとする高等教育機関では、教育は確立された知識体系を伝達するという面に大きな比重が掛けられていました。その理由として、静的な知識体系の伝達はその成果を計測することが比較的簡単であり、また客観性のレベルも高いということによります。しかし、現実の産業現場においては知識と同程度、あるいはそれ以上に、スキルやコンピテンシーと呼ばれる能力が重要な役割を担うことになります。そこで、現実にプロジェクトを遂行するプレイヤー、それも卓抜した能力を持つプレイヤーであるスーパープレイヤーの育成を目指す本学では、教育の柱の一つにスキルやコンピテンシーの教育訓練を据えることにしています。
すなわち、本学の教育の柱は、実務で必要とされる知識の体系的修得とその知識を活用しプロジェクトを遂行するためのコンピテンシーの能力強化の2本ということになり、これが本学の教育システムの最大の特徴となります。また、こうした教育を受け入れる学生に本学が求めるものは、実務知識やコンピテンシーの価値を理解し、能動的にその修得に向けて努力するということです。
実務知識は通常の大学等で教育されるアカデミックな知識とは異なり、実務遂行のための手続き型知識を多く含んでおり、実践を通ぜずにその価値を理解することは難しいため、カリキュラムは社会での実務経験を持つ学生を主眼に構築されています。
常に学び続けるための新しいシステム
本学では大学が目指すこうした方針を反映して、1年次には多様な経歴の学生に、それぞれの専門実務分野で必要とされる最新の知識スキルを体系的に学修してもらい、2年次ではプレイヤーとしての重要な資質であるコンピテンシーを明確化し、PBL(Project Based Learning)というチーム学修によりその強化を図ることを徹底して実践します。
一般に、実務は様々な専門家で構成されるチームによって遂行されます。したがって、スーパープレイヤーにはチームの運営を通じて個人知を超える高いレベルのチーム知を導き出す能力が問われます。PBL型の学修はチーム知の形成法を学ぶ殆ど唯一の学修形態と言えます。専門職人材には個人知からチーム知へ、さらには知の社会化へといった知の質的発展が求められます。この発展を支える生涯学修のプラットフォームとして、学修コミュニティーという考え方が導かれます。
本学は、個人学修から、チーム学修へ、さらにはコミュニティー学修へと学修形態を発展させ、不断に成長する高度専門職人材を育成することを目標とします。この目標に向けて本学が整備してきた独自の制度の代表的なものとして下記のようなものがあります。
(1) 1年次授業のビデオ化と本学修了後10年間の無料視聴制度
(2) 科目等履修生制度を活用し入学前学修を支えるAIIT単位バンク制度
(3) 運営諮問会議と連携したPBL検討部会
(4) 修了生を中心に教授会が認定する認定登録講師制度
(5) 多様な人々が学修を通じて交流するマンスリーフォーラム
(6) 開発型研究活動をオープン化するオープンインスティテュート
活力ある次世代都市東京の誕生に向けて
以上のように、本学は東京という成熟した産業社会の振興を、わが国唯一の工学系の総合的専門職大学院大学として、専門職人材の自己増殖する仕組みを内蔵した高度な"学び合いの場"を提供することによって達成していくことを大きな使命としています。
したがって、本学は専ら教育の受け手だけの役割をする学生を受け入れたいとは考えません。求めるのは本学が構築しようとする学び合いの場に参加し、専門的な知の力で豊かな社会を築くために行動するプレイヤーを志す人たちです。こうした人達が集う学び合いの場は、やがて東京という都市を覆いつくし、多彩な専門職人材が集う活力に溢れた次世代都市東京の誕生へと繋がるものと確信します。
産業技術大学院大学 学長
石島 辰太郎



