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教員連載コラム

不確かな未来との対話

  • 18回コラム

    「最近のモーターショーに思うこと」

    創造技術専攻教授 小山登

 かつては、カーデザイナーにとって毎年9月から10月にかけては、世界各地で華々しく開催されるモーターショーへの対応で大変忙しい時期であった。それと同時に、どんな新型車を各社が出してくるのだろうかという強い関心と、自社のショーカーや新型車が話題を振りまくことができるのかといういささかの心配もまざった期待感が交錯する、非常に心躍る時期でもあった。

 ところが、今年はいつもと様相が違う。先月出かけたフランクフルトのモーターショーでは、欧州各社の展示ブースに対抗するはずの米国勢が出展していない。更には、日本勢の大きな一角を占める筈のN社とH社が出品していないのだ。更に、今月の23日から一般公開が始まる東京モーターショーでは、例年、海外から20社以上が出展していたが、今年はマイナーな2社しか出展しないという。何ともさみしい限りである。

 先日、自動車会社の人事担当者から「かつてのオイルショックの時に、数年間にわたり新卒者の採用者数を控えた結果、今になって中堅管理者の不足という事態になって組織編成上大変苦労している。だから昨今の未曾有の厳しい経済不況下でも、ある程度人材は確保したい。」と聞いた。そうは言うものの、経費削減の観点から真っ先に手をつけられたのが、一番手近なモーターショーからの撤退だった。各社が巨額の赤字を抱えている現状を考えれば理解できないこともないが、反面、新型車やショーカーの開発やデザインの新しい試みなどが遅れをとるリスクも大きい。特に深刻な若者の自動車離れが危惧されている日本市場にとって、今まで市場活性化の役割を演じてきたモーターショーの縮小化は、新市場の開拓や新しい車のあり方など自動車の将来を積極的に提案する火を消しかねない。

 今年は、世界的に見て、環境問題を強く意識したハイブリッドカーやエレクトリックカーのショーモデルが多く出品されているが、一部のメーカーを除いては、まだ試行錯誤の中での提案も多いように見受けられる。特にデザインに関しては、本当に、車そのものの革新的な技術や新しいパッケージを最適に表現したデザインになっているかという観点から言えば、はなはだ疑問に思うものも多い。

 まさに、これからの数年で、今までの販売勢力地図を塗り替えるような、新しい技術と魅力あるデザインを備えたクルマが続々と出現するものと期待が高まる。特にハイブリッドカーで一歩リードしている日本企業の今後の動向が注目されるとともに、伝統的な技術基盤に拠らない異業種からの参入者の動向からも目が離せない。長年自動車デザインに携わってきた者として、また教育者という観点から、この歴史的な自動車の転換期をモーターショーの現場でじっくり見ていきたいと思っている。

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