研究科の紹介

教員連載コラム

不確かな未来との対話

  • 79回コラム

    これまでのグローバルPBLを振り返ってみて

    情報アーキテクチャ専攻 土屋 陽介 助教

 AIITでは2008年度からグローバルPBLの取り組みを実施しています。ビジネスの現場ではグローバル化が行われているにも関わらず、本学ではグローバルに対応したPBLが無かったため、学生がグローバルなプロジェクトを体験できることを目的として始まりました。ここでこれまでのグローバルPBLをちょっと振り返ってみます。
 2008年度では実証実験という形でVietnam National University, Hanoi – University of Engineering and Technology(以下、VNU)の学生とソフトウェアの検証を行うという2週間の短期プロジェクトを実施しました。VNU側は5名、AIIT側は約10名の学生が参加し、2週間の期間中に計5回の遠隔会議を実施しました。この実証実験を実施してみた結果として、「グローバルPBLでは語学力のみならず、お互いの違いを認識して、その違いを前提に取り組むことが重要である[1]」という知見が得られたのですが、これは現在までに実施してきたグローバルPBLでも毎回実感しています。たとえ国が違っても、お互いがお互いの文化・特徴を理解しあい、尊重することで一緒に仕事はできるし、そこから新たな価値も生まれると思います。個々では割愛しますが他にもいろいろと知見は得られ、結果的に海外大学とのグローバルPBLは実施可能であると判断し、正式にグローバルPBLを実施していくという流れになりました。
 その後、2009年度〜2012年度では中鉢PBLのテーマの1つとしてVNUとの共同PBLが実施されました。2009年度、2010年度のグローバルPBLは反復型開発によるソフトウェア開発で、AIIT側でサービスの企画をしたものをVNUと共同で開発するというものでした。2011年度〜2012年度では、その頃多くの企業でも取り組んでいた/取り組もうとしていた、オフショア開発のスタイルを採用し、AIITが発注側、VNUが受注(開発)側と役割をはっきりと分けてサービスの開発を行いました。2012年度ではさらにスクラム型のソフトウェア開発手法にもチャレンジし、グローバルなプロジェクトでのスクラムをPBLで実践しています。当時ベトナムの学生には知られていなかったスクラムを実践するとのことで、事前にAIITの学生さんとVNUに訪問しスクラムのワークショップを開催するなど現地の学生さんに対する最新技術の教育も行ったりしました。ここまでVNU側で複数チームを結成したことはありましたが、基本的にはベトナムと日本の1対1の関係でグローバルPBLを実施してきました。
 2013年度からは、enPiT[2]の1つのコースとして実施するということで、その体制や内容を大幅に変更しました。その1つが、ブルネイにあるUniversiti Brunei Darussalam(以下、UBD)の参加です。これまでのVNUとのPBLと並行してUBDとのPBLを実施する形とし、学生さんはどちらか好きな方を選んでPBLを実施できるようにしました。文化や習慣が大きく異なるこの2つの国から選べるようになったことで、自分の興味や将来のキャリアに合わせてPBLを実施できるようになりました。そしてもう1つの変更点が、開発体制の変更です。2012年度までのグローバルPBLでは、日本側が企画立案したものを海外側に開発を委託するもしくは共同で開発するスタイルでPBLを実施してきたのですが、近年の日本企業の海外展開のトレンドがオフショア開発といったこれまでの低コストな生産拠点の確保のための海外展開から、製品・サービスの新しい受注先の確保のための海外展開へと変わってきたこともあり、日本側が開発を受注するというスタイルへと変更しました。これにより作るサービスは基本的に海外側にアイデアを出してもらい、それを日本側で仕様書にまとめ開発・実装をしたのち、最終的に海外側でその評価をしてもらうという形になります。このPBLでのポイントは海外側から需要を引き出すということで、より高いコミュニケーション能力が必要とされます。またメリットとして海外側から出されたアイデアを元に開発をしていくので、海外側のモチベーションが高くなるということです。さらに2014年度からは新たにニュージーランドにあるUnitec Institute of TechnologyがこのグローバルPBLに参加しました。これにより、今までは日本―ベトナム、日本―ブルネイのように1対1のグローバルPBL だったものを日本―ベトナム、日本―ブルネイ―ニュージーランドというように、3か国によるグローバルPBLを実施することにしました。3か国の連携により同時に複数の国との交流ができるが、プロジェクトの難易度もその分高くなったと思います。以上のように、本学のグローバルPBLでは、時代の流れや社会のニーズに対応しその年その年で少しずつ変えて実施してきました。これまでこのグローバルPBLに参加された学生の皆さんや、協力してくれた海外の学生の皆さんがこの経験を活かし、グローバルに活躍されることを願っています。そしてこのPBLをきっかけにビジネスが始まることを期待しています。
 最後に、今後のグローバルPBLの展開について私の希望をお話しておきます。図1左はこれまでのグローバルPBLの開発体制として2009年〜直近の2015年までの移り変わりを示しています。これまでに述べましたように本学のグローバルPBLでは時代の流れや社会のニーズに合わせて開発体制も変更してきましたが、日本と海外とで役割は分けていました。これは、場所が離れていたり時差による活動時間が違ったりで、明確に分けておいた方がやりやすいというのがありました。しかし、近年では離れていてもリアルタイムにコミュニケーションを取ることが非常に容易になってきています。さらに、日本が発注する、受注するというスタイルではなく、世界に向けたサービスを展開していく必要があると思っています。それには、日本だけの感性でなく、海外の感性も取り入れることが重要で、多様な感性によりさらに価値の高いサービスが生まれると思います。今後は図1右のように日本と海外とでより理解を深め、全工程を協同で進めていく価値共創のスタイルが今後のグローバルPBLに求められる開発体制だと考えています。


[1] 大類優子, 成田雅彦, 中鉢欣秀, 土屋陽介, 戸沢義夫, "Global PBL Feasibility Studyの実証実験, " 情報科学技術フォーラム講演論文集 8 (FIT2009), pp. 515-516 (2009)
[2] enPiT:分野・地域を越えた実践的情報教育協働ネットワーク, http://www.enpit.jp/

コラムトップへ戻る