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教員連載コラム

不確かな未来との対話

  • 75回コラム

    IoTがゲームのルールを変える

    創造技術専攻 越水 重臣教授

 最近、ニュースなどでIoT(Internet of Things)の文字を見ない日はありません。あらゆるモノがインターネットにつながるとするIoTは、バズワードだと言う人もいるのですが、我々の生活を大きく変えそうな予感も大いにします。従来型のインターネットがコンピューターのネットワークであったのに対して、テクノロジーの進化により、今まではネットワークに接続されていなかった「モノ」がインターネットを介して情報をやり取りする能力を備えていく時代が来るというのです。ここでは、IoTが産業に与える影響を想像してみましょう。
 まさに今、私は「創造設計特論」という講義を開講しているのですが、その中でロシア生まれの発明理論TRIZを教えています。TRIZには「究極の発明」なるものがあるのですが、皆さん、何だと思いますか?それは、「機能だけあってカタチはない」というものです。お客の欲しい機能だけ存在して、カタチやモノはないというのが理想だというのです。なかなか理解が難しいのですが、この話をするときに、マーケティングの格言を引き合いに出しながら説明しています。それは、「お客の欲しいものはドリルではなく穴である」という格言です。ハーバードビジネススクールの名誉教授、T・レビット博士の著書「マーケティング発想法」(1968年)の冒頭に「ドリルを買う人が欲しいのは穴である」という文章が出てきます。お客は何かを挿入するという機能を有する穴が欲しいのであって、その穴をあけるための手段は別にドリル加工でなくでも他に良い方法があればそれでよいというわけです。本学には社会人学生が多いのですが、この問いかけは、ともすればプロダクトアウト(作り手都合)になりがちな企業人の思考回路を戒め、マーケットイン(買い手都合)に転換するのに非常に効果的だと思います。
 さて今までドリルの話をしてきましたが、実はドリルなどの工具を装着する工作機械は着々とインターネットにつながり始めています。インターネットを介して、工作機械の稼働状況をモニタリングしたり、故障の遠隔診断をしたりするビジネスが現実のものとなってきています。そうなると、ドリルが1日に何個の穴をあけたという情報もわかるはずです。現在、工具メーカーはお客にドリル1本いくらで販売しているのですが、将来は「加工された穴の数により課金される」ようになるはずです。しつこいですが、お客の欲しいのは穴であってドリルではないからです。そう考えるとこの課金方式は非常に合理的で、様々な産業においてビジネスのルールを変えていくかもしれません。
 このようなことを考えていたら、先月のこと、「Amazonが新しいサービスを検討している」というニュースが飛び込んできました。そのサービスというのが、電子書籍に関して読んだページ数に応じて課金するというものなのです!皆さんも、本を買って読み始めたものの、途中で面白くなくなり読むのをやめてしまったという経験があるかと思います。多くの方々がこの課金方式を歓迎するのではないでしょうか。
 また先日、このコラムに書いたような話を創造技術専攻の修了生にしましたところ、次のような返事が返ってきました。「すると先生、散髪代も頭髪の量に応じて代金が変わりますね(笑)」と。頭髪の量まではわからないかもしれないけど、もしハサミがインターネットにつながり、チョキチョキする回数が自動カウントできるようになれば、それにより課金されるかもしれません。おかげさまで私は髪の毛がまだ残っているほうですが、今後、薄くなっていったとしてもチョット得した気分になれるのかもしれませんね。そんなIoT時代を妄想したりしています。

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