研究科の紹介

教員連載コラム

不確かな未来との対話

  • 73回コラム

    学びの ゆるやかな まがりかど。

    創造技術専攻 網代 剛助教

PBL発表会が盛況のうちに終わりました。ここまでの間 師走の喧騒-クリスマス-お正月-成人式-センター入試-大寒 そして雪…と、寒さと共に 一気に 嵐のように 時が過ぎてゆきました。でも ここを過ぎると 産技大の季節は がらりと変わります。次の春への準備が しめやかに始まる 大好きな季節のひとコマです。

さて、連載コラムです。今回は、あくまで研究段階であることを、お断りしたうえで、すこし未来の学びの夢を記してみようと思います。毎日の中で、学生さん、同僚、研究仲間…と「それぞれに異なる自分のフィールドに生かすために、何を、どのように、学んだらよいか。しかも、できるだけ短期間で、できるだけ確実に。」について、議論を交わします。私はといえば、当初「基礎学力の底上げ支援」を目標として、防災、画像ソフト、プログラミング、統計、ゲームデザイン、発想法、商品撮影、3D CAD…と、ワークショップを繰り返してきました。ひとつひとつのワークショップは創造的で、私自身も様々に工夫を凝らしましたし、何より、参加してくださった皆さんが意欲旺盛で、大変充実したものたちでした。でも「何かが違う」。高等教育機関での教育に資するものを-と模索するうちに、私自身も、目標を見失ってゆきました。この過程で、周囲の皆さんにも、ずいぶんと、嫌な思いをさせてしまったことと思います。そこで、2014年度は、一旦すべてのワークショップを中止して、見直しをすることとしました。鬱々と考える中で、ようやく「-登ってゆく坂の上に、一朶の白い雲」と言いたいところですが、まぁ、細い、細い、糸のようなものが見えてきました。ひとつは、おそらく、個別の分野で完結させるのではなく、異なる領域への知識の応用(転移)を明示的に取り入れること。いまひとつは、学習やゲームの設計についてです。これまで(私にとって)、ゲーム設計を教育に生かすとは、知識(概念や世界観)を現象(メタファー)に投影し、教材やカリキュラムを設計することでした。でも、ふと思うと、学習した内容を自分のフィールドに生かすための工夫は、学習者による「セルフサービス」でした。これは、いかんと言うことで「現実に知識を対応させる」いわば、「逆ゲームデザイン」のようなことが、できないかなぁ…と思いはじめています。

現段階での構想のあらましは、次のとおりです(図1,2参照)。
背景:近年の高等教育機関における教育目標(OECD、文部科学省など)の達成には、高次元の認知が求められる(単純な暗記では対応できない)。
問題:Professional Schoolで用いられる、実践的な学習においては、現象からの知識の抽出は容易ではない(学習内容の問題)。また、高次元の認知は、学習者任せにしていては、効率的な教育は期待できないので、体系的な認知の支援の過程が必要である(教授法の問題)。
課題:高次元の認知を、認知を意識的に変えることができる(メタ認知の活動的側面における制御)とし、これを学習目標とした教授法を開発する。
仮説:一見かけはなれているような複数の現象間での知識の転移(高次の転移)を用いることで、対比が明瞭になり、知識が限定されることから、学習内容の明確化が期待できる(学習内容)。また、認知の支援について、学習者との個別対応による対話(三方向コミュニケーション)を用いる(教授法)。

<図1入る>
図1は、学習の問題をあらわす。Professional Schoolで多く用いられる実践的な教育では、現象から知識の抽出が求められる。しかし、現象は、多様な知識を渾然一体と内包している(A)。そこで、これまで漫然と実施されることが多かった「ふりかえり」の過程において、明示的な目標(ここでは「メタ認知の制御」)を定め、十分な時間を確保する必要がある(B)。また、知識の抽出においては、ひとつの現象内で、知識を定義するのではなく、異なる現象との対比によって、抽出すべき知識の定義が容易になると期待できる(C)。一方で、Professional Schoolにおける学習者は、すでに相応の知識・経験を有している。たとえば「現象(たとえば防災)における正解」と、「異なる現象(たとえば防災と撮影)に領域横断的な問題解決法」とを、現象に応じて、意識的に使い分ける(メタ認知の制御)ことができれば、それだけ既有の知識を活用できる機会が増えると期待できる(D)。

<図2入る>
図2は、教授法のモデルをあらわす。これまで、学習において、現象から知識を抽出する過程は、学習者に任せられていた(E)。そこで、高次転移(学習内容)と三方向コミュニケーション(教授法)を用いてメタ認知の制御を支援する。学習目標は、メタ認知の制御(意識的に使分ける)であり、特定の知識やメタ認知を獲得することではない(F)。

これらを糸口に、春からはワークショップを再開してゆこうと思っています。最後に、これから解決してゆきたい課題について記します。ブルームによれば、認知は「認知領域」(理解や分析など)、「情意領域」(好き・嫌いや得手・不得手など)および「精神活動」の領域に分類され(ブルーム・タキソノミー)、長い年月と経験を経て醸成される、価値観などの○○観は、認知領域と情意領域の双方の影響を受けると言います。私も、よく失敗するのですが、十分に文脈を共有せずの否定的な発言で、相手の感情を害してしまうことがあります。もちろん、教育の観点から「正しい」と思ってのことなのですけれど…。ブルーム的に、相手の側が「認知領域」と「情意領域」が未分化だからだ…!と批判することもできますが、私自身が「正しい」という情意領域に飲み込まれてしまっているのかもしれません。少々飛躍ではありますが、認知と情意、理と情にも、将来的には切り込んでみたいところです。

いよよ 春の息吹を感じます。
まだ 頬に刺さるような 冷たさを 受けつつ
遠くに 大地の湯気と 木々の芽吹きで
薄紅に 霞んだ 山々を 思いつ
柔らかく 沈み込む やさしい あぜ道を 踏んで
春の野を行く。

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